「おい、葛城、起きろ。でかけるぞ。」
「なによぉ、まだ4時だよー。」
朝早くから、何かごそごそやってると思ったら、布団をはがされた。
むにゃむにゃしながら髪にブラシを入れて、面倒なのでワンピースをばさっと着てしまう。
外へ出ると、中古の小さな車があった。
「あら、どうしたの、これ。」
「バイト先の社長が安く譲ってくれたんだ。ドライブに行くぞ。」
「え、えーっ!!」
「驚いたか?まえから、車で遠出がしたいと言ってただろ?」
「でも、まさか。ほんとに買ってくれるなんて。」
「さあ、出るぞ。乗れ乗れ。」
私は加持の首にしがみついてキスを配給した。
「お、うれしいね。」
「ありがと!加持くん。」
そのちっちゃなルノーのような車は、見た目よりなかなか性能がよく、空いた道を120kmくらいでびゅんびゅん走った。
一時間も走ると、昔大宮とかいう街のあった場所にある星の湖のほとりを走っていた。
2ndインパクト時に降り注いだ隕石の跡にできた湖だ。
浅瀬はすっかり蓮根の畑になっている。
「何、ここは?」
「ここはな、俺のお気に入りの場所なんだ。」
「お気に入りぃ?蓮根畑が?」
「まあ見ていろよ。」
薄もやが晴れて、辺りがよく見えるようになってくる。朝日が雲を破って射しこむと同時に、
空が一気に晴れ渡っていった。
「あ、わああーっ・・・・。」
私は初めて見る景色に歓声を上げていた。
濃い緑色の大きなハスの葉から零れ落ちる水滴、それがきらきらと輝く中から、次々と純白のハスの花が開いていく。
見渡す限りの、水面を埋め尽くすハスの群生が、見る間に白く輝くような花に覆われていく。
私は、知らなかった日常をみせられた感動で、しっかりと加持の手を握り締めてそれを眺めていた。
風が水面を吹き渡っていった。その風が私の白いワンピースの裾をはためかせた。
加持がじっと私を見つめているのを感じていた。
私は、その加持の視線を意識しながらいつまでも蓮の花畑を眺めつづけていた。
その日から夏休みがはじまった。
文 こめどころさん 挿絵 ねことはと
裏の掲示板にこめどころさんが書かれたSSです。
あまりの爽やかさに裏向きではないと思い表に置かせていただきました。
挿絵が付けたくなるような爽やかさ。と言う訳で付けてしまいました。