「星がきれいね・・・。」
「ああ・・・。」
ここは岩手県夏油温泉である。
加持とミサトは例のちっちゃなルノーみたいな車に乗ってやって来ていた。
北上山地のど真ん中。いわゆる秘湯である。
7つの外湯のうちにひとつに二人は星を見ながら浸かっていた。
夜も8時を過ぎると、風呂は二人の独占物である。
「加持くん・・・。」
擦り寄るミサト。お湯に染まった頬が愛らしい。
「あ・・・、なんだその・・・葛城、きみ、き、き、き、・・・。」
「なに・・・。」
首をかしげながら、加持を潤んだ瞳がみつめる。
「(や、やばい・・・、これ以上我慢できんぞ、俺は。)」
そっとミサトは、お湯の中に手を伸ばす。固い首をさぐりあてる。
「あ・・ん。あった。こんなになってる・・・。」
加持はついに言った。
「葛城、もう飲むの止めろ!」
いいながら、お湯の中のミサトの手から一升瓶を取り上げる。
「あん、なによう。今、あんたにも注ごうとしてたのに。」
「だから、俺はもう限界だよ!もう2時間もこうやってお湯につかって飲んでいるんだぞ!」
「温泉の温度がちょうどヌル燗ぐらいでいいのよう。」
「もう3本目だぞ・・・。」
加持の目は血走り、顔から身体中まっかっかだ。
息は上がり、酒臭い。
しかしミサトはほんのり染まっただけ。吐息も酒においではない。
甘い、甘いミサトの吐息。
「もう、部屋に戻ろう、な?」
「いやぁ。まだここにいるぅ。」
上半身を湯から引き上げると、ゆでたまごのようにぷりぷりの胸が。
気づかずにやってきた湯治客が一様に前かがみになって逃げ帰るほどの危険物。
無理矢理連れ出してもこれを丸出しに抱きかかえて部屋にいくのは、ちょっと。
「頼むよ葛城。出て、ちゃんと自分で着替えてくれよ。」
「へへへ。困ってる。加持くん困ってるんでしょう?ん?困ってるっていってご覧?」
「こまってるよ。」
「あはははは、ごめんなさい、言え。」
「・・・ごめんなさい。」
酔っ払いが無敵なのを誰よりも知っている加持。
大学でも、アパートでも、外出先でも、酒を飲み始めた時点で加持の負けなのだ。
結局、着替えた後ミサトはおんぶをせがみ、背負われたまま眠ってしまった。
山道を、旅館に向かってミサトを背負い降りていく加持。
「おれは・・・、一生こうやってこいつの面倒を見ていくのかな。」
加持は星で埋め尽くされた夜空を見上げた。
2ndインパクト以後、劇的に増えた流星が今日も美しい。
「楽しかったかい、ミサト。」
言って、加持はめちゃくちゃ照れた。
いまだに言えない「ミサト」。
「さあ、もうすぐ旅館だぞ、葛城。」
やっぱりこの方がしっくり来るな。
これが言えるようになったら・・・。
加持は、せっかくの湯上がりに汗だくになりながら屋根の見えてきた旅館に向かった。
さわさわさわ・・・夜風が木々の間を擦り抜けていった。
こめどころさんが掲示板に書かれたSSです。最初は某サイトに投稿されたそうですが
大家さんから応答がない、ということでしたのでうちに下さいました。
盗んできたんじゃないですよ、一応念のため(笑)