「ああ〜、もうまいったわー。」
「たぬきに化かされたとみんなに笑われたものな。」
東北縦貫道を、真っ直ぐになんかするミサトと加持。ルノーの調子はなかなか良く、
快調なエンジン音を上げているが、車内のふたりの意気はさっぱりだ。
「まだ、幽霊に脅された方がカッコがついたかなあ。」
「ま、実際にたぬきに化かされた記録は慶応2年以来とかいってたな。」
「歴史上に名をとどめてしまった訳?ああ、もう〜!!」
頭をかきむしるミサト。
「もう!のまずにいられないわよ!」
クーラーボックスからEBISUを取り出して、ぐびぐびとあおる。
飲み干した缶は後部座席にぽいっと放り投げる。
「ぶふわ〜!!」
そこにはすでにEBISUの空缶が山積み状態だ。
「おい、途中で運転を変わろうかとか言う気は・・・ないんだろうな・・・。」
ため息をつく加持。
「へ?なんもこほお?」
振り返ったミサトは焼きそばパンを口いっぱいに頬張っている。」
「・・・いや、なんでもないんだ・・・。」
「そう?ならいいけど。」
なんだか、道が混雑してきた。どこかで渋滞が起きているようだ。
とうとうしばらくするとすっかり止まってしまった。
30分、1時間、車は動き始めない。
「ね、ねえ加持君・・・・。」
「ん?」
「あのさ・・・。さっきから・・・行きたいんだけど。」
「へ?おい、冗談だろ。」
「冗談でこんなこといわないわよっ。」
「しかし、困ったな、次のパーキングまでどれだけかかるかわからんぞ。」
青い空の中に浮かぶ小さかった雲がだいぶ育ってきた。
ミサトの顔が段々、青くなってくる。
「ね、ねえ加持君・・・、まだかな・・・。」
「さっきから2,3mしか動いていないだろ。」
「わたし、わったしさ・・・、もうだめみたい・・・。」
「おっ、おい!頼むから我慢してくれよ。」
薄笑いを浮かべるミサト。
「へ、へへ。」
「葛城ぃ、がまんしてくれよ。」
「だっ、だめえ、も、もうだめ。くっ、くっくっく。」
なまじじたばたしないのが恐ろしい。ミサトの青くなった顔に油汗が浮かんでいる。
涼しい風が、緑色の水田を吹きぬけていく。さらさらと風の形のままに色を変えてきらめく稲。
みんみんみんみんみん・・・。蝉の声が染み出す様に周囲から湧き上がっている。
空は晴れ上がり、真っ青な空に純白の入道雲か立ち上がっている。
見渡す限り視野が開けた水田地帯である。
「はあああ〜。」
ミサトの大きな瞳から、涙が一粒、流れた。
「モウ、ゲンカイ・・・」
ミサトはバッとドアを開けると車から飛び出し、高速道の盛り土の下に駆け下りていった。
すると、続いてばらばらと何人かの女性が後に続いた。さらに十数人が坂を下っていく。
遮るもののないところで、水田の葉の間に隠れ、用を足す人々。
加持が振り向くと、そこここの車から、男たちも降り立ち、道路の端に5、6人づつ並んで仲良く放水中。
いらいらした雰囲気が消え、車の横に立って一服する人、水筒を廻す人、隣の車と話をする人。
「ただいま〜。てへへへへ・・・」
戻ってきたミサトは早速EBISUの缶を取り出す。ぷしゅっ!
「おいおい、反省はなしか?」
苦笑いする加持。
「もうこわくないもの。早く行けばよかった〜。」
「ま、みんな生理現象は一緒ということか。」
さらに待つ事1時間余り。ようやく動き出した車。
恥多き旅の終りを飾ったミサトさんたちは、一路おうちを目指すのであった。
カラン! またひとつ、EBISUの缶が後部座席に放り込まれた。
すみませーん!すみませーん!また書いてしまいました。
でも、夏の旅行でこういう体験ありませんか?
私、ひどい目にあった事がありますよ。(爆!!)(^^;(こめどころ)
温泉シリーズもこれで完結ですね。お疲れ様でした(鳩矢)