ねこ鳩通信社30000HIT記念
ほのぼのLMK
西暦…もうよく分からないんで新暦が来年から始まるらしい年。
ここは年末の買い出し客でごった返す、海辺の街、荻窪。
ここから青梅街道一つ向こうがの駅が阿佐ヶ谷の港。
逆方向に2kmほどいくと武蔵野の中心大都市、吉祥寺がある。
吉祥寺の市街は三鷹区国分寺区と一体になっており、新交通システムが
吉祥寺、石神井、大泉インター市、一ツ橋大学、津田塾、小平、国分寺と、
半月形につなぎ、吉祥寺、荻窪、阿佐ヶ谷港をつなぐ旧JR線と相互に乗り入れている。
国分寺から海辺をつないでとおる武蔵野線にのり込み、多摩川湾をわたって
南武線に乗り換えると東京南部の大都市町田港がある。さらに南武線を下り一山越えると、
旧時代からの古都、横浜に着く。
この時代の中心都市はこんな連環でつながっている事を分かって頂けただろうか。
話は荻窪の街から始まる…。
「あ、リツコ。あれも買っていこうよ、シンジ君の大好物だし。干しタコ。」
「あ〜んなもん、シンジ君が好きなわけないでしょ、あんたが酒のつまみに欲しいんでしょ。」
「いや〜、さすがに長い付き合いの友達はごまかせないわね〜、にゃはは。」
「ま、久しぶりに帰ってきた日本だし、わかるけどね。」
ぴぽ、ぴぽ、ぴぽ…信号が鳴り出した。
「あ、ほらほら、急いでわたらなくちゃ…。」
二人は大荷物を抱え直すと急いで道を渡り始めた。
そのとたん、ミサトは誰かに腕をつかまれて引き戻された。
「えっ…。」
道にばらまかれる荷物。
「ちょっとあんたなにすんの、離してよ!」
しゃがみこむと、急いで荷物を拾い集める。
「あ、あの・・もしかして、葛城ミサト、さん、ですか?」
「は?ええと。」
相手の顔をまじまじと見る。サラリーマン。しかもかなり堅そうだ。
タイプじゃないかも・・。げっ、7:3分けかい、今時。
まじめそうな黒ぶちのめがね、
え?ええっと?
もしかしてえ?
「か、加持くうんんんんん?」
途中まで拾い上げた荷物が再びばらまかれた。二人は凍り付いたように動かない。
バ、ババーッ。ブブブーッ。
信号はとっくに変わっている。
激しいクラクションの渦と怒鳴り声。
「ばかやろうなにやってんだあ!」
「おらあ!みつめあってんじゃねえ!」
二人は動かない。
固まったままだ。
「ミ、ミサト!なにしてんのよっ!!」
慌ててリツコが飛んで戻ってくる。
「すみません、今片づけますから!すみませーん!!」
ぺこぺこしながら、荷物を…、ふとミサトの相手を見上げると、
「あ、あんたは…。」
こちらも固まってしまう。
「ばっきゃろーっ!!こちとらいそいでんだぞ!」
「さっさとどかんか、ぼけっ!」
罵声の数が増える。クラクションの嵐!!
「うるさああい!!!」
ミサトは懐からとりだしたチェコスロバキア製CZ75−OLD*を数発一番うるさい
手前のスカイラインにぶち込んだ。
バン!バンバン!
ぼん!!
あっという間にエンジンが煙を噴く。
「あ・あ・あ・あ。」
唖然とするドライバー。シーンと一帯が静まり返る。
「あは…、葛城だよな。」
「加持。ばかっ、散々探したんだからね。」
生きてたんだ。生きてたんだ。ミサトは叫び出したいのを必死でこらえていた。
「あ、あの…。」
おずおずと、意を決したように加持は口を開いた。
「?」
「まだ、ひとりだよな。」
加持はミサトの左手を見ながら言った。
そして、ミサトの腰に手を当てて引き寄せた。
「俺と、結婚してくれ、葛城。」
ミサトは、ぼっと音を立てて、真っ赤になった。
「な、なに言うのよ、こんなとこで。」
まだ右手にはCZ75を握り締めたままだ。
加持はもう一度大きな声で言った。
「俺と、結婚してくれ!」
真剣な目だった。
「…いい、わよ。」
もう何も考えられなくなって、ミサトは返事をしていた。
世界が回る。ぐるぐるぐる……。
リツコは胸に数の子の箱を抱えたまま二人を唖然として見つめていた。
まったくはた迷惑よね、いつもあんたたちは。
警官が交番からあわてて走ってくるのが見えた。
*CZ75-OLD:
チェコスロバキアの生んだ名拳銃。オートハンドガンの最高峰と言われる。
1999年現在、5000ドル以上のプレミアがつくマニア垂涎の銃。
もちろん日本で持つ事は法に触れる。
ちなみに普通のオートハンドガンはアメリカでは、60〜100$で購入できる。
ガンスミスキャッツ(講談社アフタヌーンコミックス)のラリービンセントが、
愛用している事で有名。
荻窪警察の近くの喫茶店ルノワール。霧雨が降っている中、やっと開放された三人は
荷物を近くのコインボックスにほうり込んでホッとしていた。
西荻窪駅が近い、人通りは夕方になってますます増えているようだ。
ミサトは加持の格好が気になっていた。
「ところで何なのその格好は。何かの変装?」
「いや、そういうわけじゃ。」
「あんたまさか、危ない犯罪組織みたいなものに参加してるんじゃないでしょうね。
それだったら…。」
結婚の話は無しよ、とミサトの目が言っている。
「あぶないのは、あんたでしょ、ミサト。」
リツコがため息を吐いた。
「おかげで、警察で5時間も油絞られて。天気もこんなに悪くなっちゃうし。
ネルフメンバーだからっていつまでも世間様は特別扱いはしてくれないわよ〜。
街中でハンドガン撃ちまくるなんてねえ。あきれたわよ!」
「撃ちまくってなんか! ほんの2,3発…いや、あ、あれは…悪かったと思ってる
わよ…。」
ぺこぺこと頭を下げるミサト。
「まったく、加持君の事になると見境が無いと言うか、ま、むかしからだけど。」
「いや、俺も非常識なところで声をかけたから。でもここでつかまえないと。いつになるか、
っていうか。勝手に身体が動いて。リっちゃんには、迷惑、かけた。」
しどろもどろな加持。
「いいわ、とにかくもうすぐマヤが迎えにくるから。荷物は私が持っていってあげる。
ミサト、あんたは加持君とよ〜く、話し合ってくるのよ!い・い・わ・ね。」
「は、はい。」
「加持君もいい?ちゃんと決められない年じゃないわよね!」
「あ、ああ。いや、はい!」
リツコはレシートをサット取ると立ち上がった。札と一緒にレジに放り出す。
「おつりはいいわ。」
店の外に出ると、ミサトが追いかけてきた。
「リ、リツコ〜。」
「なんて顔してんのよ!ちゃんとしなさい。あんたもう返事しちゃったんでしょ。」
「だって、勢いで〜。でも、怖いのよ〜。うまく行くと思う?」
「ばっかねえ。加持君が何年待ってくれたと思ってるの?」
「わ、わたしだって待ってたんだもん、あいつ、ずっと行方不明だったし!」
「もう逃げられないわよ。覚悟決めなさい!」
リツコがピシッと言ったので、反射的に気を付けをするミサト。
「行き遅れちゃうわよ。がんばって。」
「リツコ…。」
人ごみの中、リツコはマヤとの待ち合わせの場所に消えていった。
不安げに見送るミサト。
両肩に手を置かれて、ふりかえると、加持だった。
「葛城。もう逃げないでくれよな。」
ミサトは子供のようにこっくり肯いた。そして両手を顔に当てると泣き始めた。
「ど、どうしたんだよ…。」
おろおろする加持。
「なんでも、ないよ。…でも涙が止まらないんだもん。ほっといてよ。」
「ほっといてったって…。」
「わたしは泣きたいの!」
「わ、わかった。」
霧雨がさらさらと降っている。二人はしばらく立ち尽くしていた。
「お、俺。」
加持が口を開いた。
「平和になったときすぐ葛城を迎えに行くつもりだったんだ。
でも俺には諜報員としてのキャリアしかない。
この手の仕事を続ければまた君に心配をかけることになる。」
ミサトは手を顔から放し、泣くのを止めて涙をハンカチでぬぐった。
「俺は、葛城に君がずっと望んでいた家族みんながいつも一緒に暮らせる幸せな
家庭をあたえたかったんだ。でもその時の俺には無理だった…。」
「だから逃げたの?わたしがどのくらいあんたを探したと思う?」
「すまない。」
再び沈黙。ミサトの髪は濡れそぼり、加持のスーツも水をかぶったようになった。
「俺は、顔も、身分も、過去も変えて一からやり直した。
そしてやっと今は香水会社の研究職員だ。丸4年かかっちまった。
やっと変装をといて迎えに来れる自信がついたところだった。
でも、葛城に会いに行くのが怖くて、一日延ばしにしてた。
今日、葛城が信号待ちで、俺の目の前にいたとき、信じられなかった。
神なんか信じた事はないが、やっと許されたんだと思った…。どうしても自分の目が
信じられなかったんだ。声が、声が出なくて。
思わず腕をつかんで引き戻してた…。
…葛城、待たして済まん。
もし、もし 俺を許してくれるなら…。 俺と一緒になってくれるか。」
ミサトは振り返った。顔は涙でべしゃべしゃだったが、雨にぬれてわからない。
「ばかね。あんたは、本当に馬鹿よ。前から馬鹿だと思ってたけど。」
ゆっくりと、腕を広げた。
そしてゆっくり加持の頭をつつむように引き寄せた。
「おかえりなさい。あなた…。」
「ただいま…。」
二人は雑踏の中で、いつまでもいつまでも、くちびるを重ねていた。
だいぶ離れたところに、小さなパールイエローの車が止まっていた。
「よかったですね。先輩。」
感激屋のマヤは涙ぐんでいる。
「まあねえ。まったくあのふたり、何年遠回りしたのやら。さ、行きましょ。」
くすりとマヤは微笑んで車を出した。むこうを向いたままのリツコの声が
少し震えていたからだ。
「(大好き!先輩。)」
サードインパクト後の世界。
何もかもが再び始まろうとして萌えあがっている世界であった。
おしまい。
ねこ鳩通信社御中
30000HIT、おめでとうございます。
ちょっとほのぼのをかいてみました。
驚くなかれ、このLMKは(拳銃とかを別にすると)実話であります。
現実は小説より派手ですねえ。
(実際には持っていた花束で車をぶっ叩いた。)
しかし僕の筆力が追いつきません。
あの時の感動を皆さんに上手にお伝えできないのが残念です。
実話では二人は7年ぶりに交差点で出会い、プロポーズがあり、結婚しました。
いまは杉並で女の子二人の父母として開業医をやっています。
(この後また一悶着あって医者になる事になって、大学合格とともに結婚しました。)
ま、いろんな人生があります。ドラマじゃあるまいし、
といって投げてしまってはならない事がいっぱいあると言う事ですね。
奇跡は、実際、起きる事があるのです。
それではまた。 こめどころ