第十三話「メインイベントその4」
Kくんが…別人のようになったKくんがあの僕を抱き起こしたレフリーに抱えられて
コーナーに戻ってきた。
脹れあがった顔、血まみれの顔面、細い胸板、スプレーで吹き付けたように真っ赤に
染まったトランクス、ハイソックス、シューズ…
コーチがKくんのお口からかろうじてくわえていたマウスピースをもぎ取る。
意識が朦朧としているKくん…「ゴボッ」咳のようなものをすると糸を引いた
赤い液がお口から垂れた…「ハッ…ハァ……」苦しそうな息つかいが…
僕はもう半狂乱になりつつあった、「Kくん!Kくん!ねえ!Kくん!」
Mくんも怒り狂っていた「頼むから止めて下さい!!」
しかしコーチは淡々と丸椅子でぐったりしているKくんの手当てを続けた。
止血、これでもかと言うぐらい脹れあがった顔にワセリンを塗りたくる…
頭から水をかける…氷の入ったタオルを押し付ける…
またしても長いインターバルだ、必死の手当ての甲斐があり?
Kくんの目に少し精気が戻ったようだ…が…
レフリーが近づき様子をうかがう…Mくんがレフリーに必死にストップを…
しかし、次の瞬間「ラウンドスリー!ファイト!」
コーチが無理矢理Kくんを立ち上がらせて背中を…
かろうじてグローブを顔の前にあわせて2、3歩前によろめくようなKくん…
相手が近づく…がKくんの様子を見ると不信そうにレフリーの顔を見た
レフリーは「行け」と言うような仕草をした…
相手の子の顔にももはや闘志は全く感じられない、相手のコーナーも
「さすがにこれ以上は」というムードだ、さっきまでと感じが違う。
その中にアイツもいた…僕に殺さんばかりに襲い掛かってきたアイツだ。
あいつの顔もさっきまでと違うようだった…相手コーナーから指示が…
それを聞くと黒いシューズが立ち尽くすKくんの前で音を立て始めた…
鋭い踏み込みからのジャブ!Kくんの左右のグローブを思いっきりたたく!
よろけて千鳥足のKくん…そして…周りをパンチを空振りさせながら回る
相手…次の瞬間、ついにチャンピオン?が攻撃を仕掛けた…
軽いジャブが3発、完全グロッキーのKくんの顔面に!
『手加減してくれたんだ…』そんなことを思ったのもつかの間
Kくんにとってはそんなパンチでも強烈なダメージが!
ヨロヨロっとロープに絡みつくようなKくんの顔!!
「やばいぞ!」Mくんが叫んだ…
Kくんのお口からはマウスピースがはみ出してそして…そして…
完全に白目をむいている!
チャンピオン?はKくんの正面に立つとついにトドメを刺した!
ボディーブローだ…それも力を抜いた…
次の瞬間Kくんはスローモーションのように血まみれのリングに
崩れ落ちていった…「ドタッ!」スゴイ音がした…
レフリーがKOを宣言、コーチ、僕、Mくん、先輩、会長、相手のコーナーからも
一斉にKくんのところへみんなで駆け寄った…
「うわっ!」僕は本当に気が狂いそうになった、大好きな可愛いKくんが!!!
白目をむいて失神、お口からは血まみれの泡を吹いている…
全身ピクリとも動かないが、自慢の長い脚の太股だけがピクッピクッと痙攣している…
すぐに横向きにされてコーチがグローブを外す!
「おい!M、KENN!シューズ脱がせろ」
僕はその時自分がまだバンテージをしているのにはじめて気がついた…
血に染まった白いリングシューズとハイソックス…
プーンとシューズと血の臭いがKくんのトレードマークのハイソックスから…
『いけない、何でこんな時に』と思いつつもまた変な興奮が…
「病院だ!連絡しろ!俺が連れて行く!」
担架に乗せられたKくん…
僕の肩がその時ポンと叩かれた、アイツだ…僕を失神KOしたアイツが…
「おい、おまえこそ大丈夫か?」僕は笑顔を作ろうとした…顔中痛い…
「根性だけは認めてやるよ…」そういうとまた僕の肩を叩いた…
「KENNくんも連れて来い!」会長の声がした…
続く
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