第十ニ話「メインイベントその3」
2Rのゴング、また地獄の2分間…いやそれ以上の時間が開始された。
勝気にもグローブをポンとあわせて屈強なチャンピオン?に向かっていくKくん
例の短い白いトランクスから伸びた長い脚を使って…
異様に長いインターバル、それでもKくんのダメージは見た目にも良くわかる…
ちょっぴり赤く染まったリングシューズ、相手の周りを左右に動こうとするけれども
時々脚が揃ってしまう…
それでも可愛い顔には再び闘志の灯がみえる『Kくん、危ないよ…逃げて…』
そんな僕の想いとは裏腹に基本どおり左のジャブを出してゆくKくん。
相手の子は余裕でグローブをダラリとおろして顔を突き出すようにして
上半身だけでKくんの必死のパンチを軽々とよける…そしておもむろに…
右のフックを繰り出す、さして力を入れないで打っているのに…
パンパーン!乾いた音が…Kくんの左頬、レバーに面白いようにヒットしてしまう。
「Kくん、にげろ!」「K廻れ!」
また異様なムードに包まれてゆく…
Kくん、ダメージは隠せず真直ぐに下がってたちまちロープに…
下がる時の脚もベタ脚で…
ロープを背にしたKくん、鼻血が噴出している、さっきの連打で唇も切られている…
左右のフックでまるで絵にかいたように打たれながらコーナーに詰まるKくん…
時間はまだたっぷり残っている。
「いいぞー!最高だ!じっくりいけ!じっくり!!」あまりに惨い野次…
Kくんの脚は完全に止まっている。血染めのシューズのかかとが…
相手コーナーからまた笑いながら指示が飛ぶ、それに試合を終えた選手からも…
ジャブを浴びつづけるKくん…血に染まったマウスピースがはみ出す…
汗と血が混じって飛び散る…
そして。
Kくん相手の子にクリンチ、次の瞬間…相手の子がスポーツ刈の頭を突き上げた…
「ゴボッ」物凄く嫌な音が響いた。
隣のMくんが声を張り上げた「汚ねー!わざとやりやがった!!」
Kくんの顔面が血で染まっている…
バッティングだ!
「ストップ!ストップ」さすがに割ってはいるレフリー…
ニヤニヤ笑いながらこの光景を見る相手の子とコーナー。
フラフラの脚でレフリーに手を引かれコーナーへ…
Mくんと僕も近寄る。長い前髪の中、額の部分が切れている…
マウスピースを吐き出した後、たまった血をダラダラっとお口から垂らしたKくん…
噴出す血にタオルを当てる、Kくん「クウッー」声にならない声を…
松脂を塗られるKくんの顔、あの可愛い顔がもう見る影も無い
脹れあがった瞼、切れた唇…
わずか3分強で、同じ小学生ボクサーに…でも僕も…
Mくんが「もう止めて下さい、お願いです!」無視…
僕はあまりの光景に声が出なかった…
その時リングのエプロンにいた僕の下で「パシャ」シャッターの音
振り向くと下からローアングルで僕のことを…
「いいアンヨだね!血が一杯ついてるよ…」悔しさがこみ上げた僕
そのオジサンに向かって唾を…血がまじった唾を…そんなことをしているうちに
Kくんはまた無理矢理マウスピースを押し込まれた、
『もう、僕みたいに失神しちゃえば…』
ほとんど夢遊病者のようなKくんに
来た!あいつが…黒のリングシューズの音、飛び跳ねるようにKくんの前に…
僕の目の前でジャブを浴びるKくん…左フック…
2,3歩よろめいたKくん、そのまま崩れ落ちる…
「バンビKくんダウーン!」レフリーの声…カウントは?とらない…
Kくんの様子が…普通じゃない…
「のた打ち回る」そんな感じだった。仰向けからうつ伏せ…
真っ赤になった短いトランクスから伸びた長い脚は絡み合うように…
僕はまた目を疑った…
Kくんは一瞬大の字の後もがきながら四つん這いの体勢から顔を上げた…
ここでゴングが打ち鳴らされた!
試合終了?いくらなんでもこれ以上は…
しかし、まだ1R残っていた…
続く
第十一話へ