第五話「少年ボクシングの魔力」
それにしても、なんなんだろう?あの不思議な興奮は、あれから・・試合のたびに
相手をやっつけても、自分がやられても、ましてやKくんが・・・・
とにかく不思議な感情が自分の中に湧いてきたのは確かだった。
最初はイヤで仕方なくって、すぐにやめる予定だったのに・・・
今ではKくんも僕も、ランニング、縄跳び・・・進んでやるようになっちゃってる・ ・・
そんな僕らに同じジムの真面目な?少年ボクサー達も心を開いてくれだした・・
「お前ら、女みたいだと思ってたけど、なかなかやるじゃん!」って。
そんな頃、ジムは1階上に新しいフロアを借りて、主に少年たちはそちらで練習
するようになった・・・めったに上がれなかったリングを使える時間が一気に・・・
ある日会長が・・・「おいみんな、たまには遊んでいいぞ!」・・・・
「リングでプロレスごっこでもしろ!」・・・・その時は「何言い出すんだ?」って 思った・・
僕ら以外の小学生はみんな喜んじゃって早速試合開始・・
やっぱり僕たちは「バンビタックチーム」を組まされて・・・・
やられ放題やられた・・・4の字固めに悲鳴をあげるKくん・・・・
「アリキック」とかいってローキックをもらってダウンの僕・・・・
そんな姿をやっぱり会長はビデオで・・・・
それに、やたらとジム同士の少年でスパーリングや練習試合をやらされた・・・
Kくんは、デビュー戦で血がついちゃったトランクスをまた新しいのをもらって・・
それがますます短い・・・
ある日、僕とジムのMくんが練習試合をさせられた・・・
Mくんは本当に「将来の夢はプロボクサー」って感じの子、はっきりいって強い・・
スポーツ刈の頭・・・
正直「いやだな」と思ったけどいい経験かな?なんて・・・
ずいぶん前向きな僕・・・・
例によって短い白トランクスにハイソックス・・赤いへットギアの僕・・
Mくんは「容赦しないからな!」と試合前に僕に・・・
カーン!!1Rのゴングが・・・・
「は、早い・・」Mくんの動きについて行けない僕・・必死にジャブを出して後退・ ・
「あっ?」そう思ったときはもう遅かった・・・
一体どこからパンチが・・・僕のチンに強烈なMくんのアッパーが・・・
頭がクラッとして・・・脚が力が入らない感じで・・・
そのあと立て続けに何発か・・・・
気が付いたら目の前にはブルーのキャンバスが・・・
「ダウンさせられたんだ」・・・しゃがみこむようなダウンは試合で奪われたことも あったけど
こんなのは初めてだ・・・一瞬記憶が無いような感じで・・・
「ワン!ツー!スリー!・・・・」立たなきゃ!無意識のうちにそう思う・・不思議 だ・・・
脚がふらつく・・なんだかボーッとしている・・『これが本当に効いたって感じか・ ・・』
「ナイン!KENN大丈夫か、ファイト!」コーチが僕のグローブをにぎってそう言 った・・
Mくんは「KENNどうした!」とかいいながらさらに攻撃を・・・
立っているのがやっと・・苦しい!それに口の中が痛い・・・・
マウスピース吐き出しちゃいたい・・・・・
Mくんも手加減してくれたのだろう・・その後完全棒立ちの僕にボディー攻撃・・・
たちまち内蔵が締め付けられるような感じ・・・・
「うわっ!」・・・・・・・・・・・・・・・
気が付くとまた目の前にキャンバスがあった・・・大の字にダウンしている・・
「スリー、フォー、ファイブ、・・・」駄目だ・・全然体が動かないというより
力が入らない・・・ものすごく苦しい・・・
「シックス!」脚が少し動いた・・ハイソックスの右ひざを立てて・・・
グローブをキャンバスにつけて身体を反転・・・
「セブン!エイト!」グローブに力をいれて立ち上がろう・・・・全然駄目だ・・
「ナイン!テン!」・・・・・・テンカウントを聞いた瞬間力が抜けた・・・
またもとの大の字に・・・・
コーチがMくんの手を上げているのがうっすら見える・・・
「勝者M、1ラウンドノックアウト!」・・・・・
『かっこ悪いな・・・早く立たなきゃ・・・』ようやく自力で立ち上がってコーナー へ・・
脚がフラフラで思うように歩けない・・・倒れるように椅子に・・・・
コーチが「Mは強いだろ!スピードも違うしな、KENNもがんばれよ!」
マウスピースを吐き出すと血が・・・・
それに、頬のあたりがものすごく痛い・・・
「僕最後どうしたんですか?」
「ボディーでグロッキーだろ・・・とどめにMの右ストレート食ったんだよ・・・」
Mくんが来た
「KENNごめんな、でも勝負だからな、無理も無いよ俺もう3年も通ってるんだから・・・」
確かに悔しかったけれど・・・「スポーツ」って感じで・・・
でもそのときも会長はビデオを・・・・
始めての強烈なノックアウト負け・・・自分のそんな姿が脳裏に浮かぶ・・・
鏡に映る僕・・ちょっぴり顔が脹れ上がって・・・
また、あの不思議な興奮が・・・
いつしか僕の姿はKくんにすり替わっていた。
続く
第四話へ