ネコ




「リツコいるう?」
ミサトが顔を除かせた部屋の中。
カタカタという無機質なキーを叩く音だけが響いている。
ドアの隙間から室内を見回して、
いつもの場所にリツコの姿を見つけると
ミサトはキョロキョロとあたりを伺いながらリツコに近づいた。
「おはよう、どうかしたの?落ち着かないわね」
リツコは画面に目を据えたままで
真後ろに立っているミサトに言った。
「んー、ちょっち・・・・リツコにお願いがあるんだけど」
お願いと言われて、リツコがイスごとミサトを振り向き
眼鏡を外してその顔を見上げた。
ジャケットのお腹あたりがやけに膨れていて
ミサトは両腕でそこをかばうようにしていた。
「・・・何かしら」
ミサトはリツコに見つめられて
愛想笑いを浮かべている。
ふくらみが気になって
思わずリツコの眉間に皺がよった。
「・・・あなた、まさか」
「へ?」
「加持君は知ってるの?」
「は?」
リツコの真剣な顔に対するミサトの顔は狐につままれたようだ。
は?と言ったままの表情でリツコの次の言葉を待った。
「子供ができたとかいうんじゃないでしょうね」
「ば!!ち、違うわよ!!!!!
 な、何言ってるのよお!!!!
 や、やだ!もう!!!リツコったら!!!!!」
依然として、腕で何かを守るように抱えながら
ミサトは真っ赤になって叫んだ。
本当に、そうじゃないのは焦り方でわかる。
そうだとしても、おかしくはないのだが
違うらしい。
「おおお、脅かさないでよ・・もう!」
「そう?いいんじゃないかしら?それでも・・・・」
「だっ、だから!!!リツコ!!!!」
「で、何なの?」
リツコの切り返しの早さにミサトは思わず肩透かしを
食らったように、ずっこける。
いつも通りなリツコに白旗を振りつつ
ミサトは自分の腹にちらっと目をやった。
「ねえ、リツコ。あの・・・」
ミサトは何かを言いよどんでいるらしい。
リツコはしびれを切らして事務的な声で言った。
「葛城三佐。
 悪いんだけど、用件は的確、且つ迅速にお願いできる?
 ちょっと立て込んでるのよ」
リツコの言葉に頷きながら
ミサトはそれでも気後れしているようだった。
「あ、うん。そのお・・・」
「・・・・・」
「・・・・ちょっと、これ、見てくれない?」
ミサトは今までジャケットをかき抱いていた腕を片腕だけほどくと
リツコの目の前で
中が見えるように少し前屈みになった。
「・・・・・どうしたの?これ・・・」
いつもクールなはずのリツコの顔が微かにゆるんでいる。
さっきまでの、仕事人な雰囲気はない。
声も心なしか優しい。
覗き込んでいるミサトの懐には
小さな黒と灰色のまだら模様の毛を
規則正しく波打たせながらぐっすりと眠る
生後まもない子猫がいた。
「ここへくる途中、車飛ばしてたら轢きそうになっちゃったのよ。
 道路の真ん中で座ってるもんだから。
 で、そのまま置いとけなくて、連れて来ちゃったってワケ」
「ずいぶんと毛並みもいいわねえ。でも、どうするつもり?」
リツコの顔が、これ以上なく優しい。
「ねえ、リツコ。飼えない?」
「え?」
「だってうちは、ペンペンもいるし
 これ以上、ペットを増やしたらアスカやシンちゃんに
 何を言われるか分かったもんじゃないわ。」
「無理ね。こんな仕事しててペットなんて・・・
 誰もいない家においとけないわ。
 可哀相だけど・・・・。」
「リツコ、猫好きでしょ?
 ね!大丈夫よ!!
 家においとくだけで、いいから!
 雨風しのげて、ご飯があって!」
リツコは楽天的なミサトの考えに静かに首をふった。
「だめ。
 かまうモノのない部屋においておけば
 動物は半分、野生化してしまうし
 それに、そんなふうだったら
 外で自由に暮らした方が幸せよ・・・・。」
「・・・・そう・・・」
「そう」
「・・・・じゃ、わかったわ・・・。
 元の所に返してくる・・・。」
がっくりと肩を落として出ていこうとするミサトを
リツコは黙って見守った。
置いておきたいのはやまやまだが、
仕事柄、部屋に帰る時間も定まらず
ましてや



「あんなに小さかったら
 ミルクだって何時間かおきに
 あげないといけないのよ?




 あら・・・やだ・・・あたし・・・」



無意識のうちに口走った言葉にリツコは苦笑した。
肩を2.3度叩いて、眼鏡をかけ
キーボードの上に手を置きかけて溜息をつく。
どうにも、あのネコが頭をちらついて離れない。
あんなに小さくて生きていけるのだろうか・・・。



「ああ、もう・・・余計なことを・・・」




言いながらリツコは立ち上がる。
まだミサトはそう遠くへは行っていないはずだ。
追いかければ間に合うだろう。
やれやれ・・・・
と言わんばかりに首を振るリツコの顔は
溜息とは裏腹に何故か楽しげだった・・・・・・











                 終





------------------------- by F -----------------------




つまんない話ですいません。
ちょっとでも心和むといいなって・・・
慌てて書いたので・・・
鳩さん、がんばれ!
それでは、また!








うはぁ、尊敬するFさんにSSを頂けるなんて、少し凹んでラッキーだったかも(笑)
Fさんの気持ち、確かに受けとりました。
ありがとうございます。(涙)
これからもじゃんじゃん投稿してやって下さい(鳩矢)