……俺は加持リョウジ。特務機関NERV特殊監査部所属、当年とって31歳、無精ひげがぷ
りてぃな独身貴族だ。
 突然だが、今、俺のアパートの床には、巨大な包装紙に包まれた「物体」が置いてある。
 大きさは……そうだな。
 大体「大人の人間が中に潜んでいる位」と言えば、察しがつくだろうか。
 それくらい、大きなものだ。
 俺は、溜息と共に「それ」を見下ろした。
「そうか、今年はこう来たか……」
 俺が「これ」を受け取るのは、8年ぶりなのだ。


 俺は、運送屋が2人がかりで運んできた包みを、床に放り出したまま・・と言うか、他に置き場
所がないのだが・・ベッドに腰を下ろし、深い溜息と共に、頭を抱えた。
 今日、俺が受け取った「コレ」の中身がなんなのか、俺にはよく分かっている。
 8年前まで、3年連続で受け取り続けたのだから。
 中身は……人間だ。
 今日……2月14日と言う日が、世間一般でどんな意味を持つのかを考え、俺を取り巻く人間
関係を考え、過去にどんな事がこの日俺に起きたのか、を考えると、自ずから答えは出る。
 「コレ」の中身は……某国連所属の非公開組織に29歳で独身の国際公務員、だろう。
 俺は、煙草に火を付けると、天井にむけて煙を噴き上げた。

 おそらく……俺の推測が正しければ……この包みの中では、29歳で独身の某作戦課長が、大
胆にもその身にリボンだけを纏った姿で、俺が包装紙を破る瞬間を今か今かと待ち構えているは
ずだ。
 わざわざ、宅配便に運ばせる、と言うリスクまで犯して。
 「天地無用」と言うシールが貼られた包みを眺めながら、俺は内心「運ばれるとき痛くないん
だろうか?」などと、無用な心配までしてしまった自分を呪った。
 そんな事に拘泥する女ではなかった。昔から。

 そう、あれはもう11年も前の話になる。
 大学時代、貧乏だった俺に更に輪をかけて貧乏だったその女は、その年の2月14日、コート
の下にリボンだけを纏った姿で、俺の部屋を訪れた。
 喰うに手一杯で、贈り物を買う金を工面出来なかったから、と言い訳しながら。
 男なら、感涙すべきシチュエーションだった。
 もちろん、俺も感動した。
 ……そして、その後、猛烈に後悔した。
 理由は……。

 その時、例の包みが「がさり」と蠢いた。

 ・・やはり、いる。

 次の年も、女は同じ格好で、2月14日に、俺の前に姿を現した。
 その次の年は、俺の部屋で、俺の帰りを待ち構えていた。

 「バレンタインのぷれぜんとは、あ・た・し!」と言う台詞と共
に。


 1回目は、感動した。
 2回目は……やっぱり感動した。
 3回目は、感動した振りをした。
 そして、今年。
 今年、俺は、彼女にどんな言葉を掛ければいいのだろう?

 「なにを贅沢な事をほざいているか!」という、世の報われない男どもの悲鳴に似た罵声が聞こえてくるような事を、俺は考えているに違いない。
 だが、考えてもみてくれ。
 毎年毎年同じパターンで攻められれば、飽きない、と言う方がどうかしている。
 違うか?
 確かに、男が一度は言われてみたい言葉かも知れない。
 が、二度も三度も繰り返されれば、段々感動が薄れるのは否めない事実だ。

 
 それに、別の要因もある。
 むしろ、そちらの方が重要だ。

 それは……彼女が、おそらく今年もしっかりとその公称Eカップと言われる巨大な胸に抱えて
いるであろう、ある「物体」に深い関わりがある。
 一体誰が始めたのか知らないが、セカンドインパクト前から、2月14日には、女が男にチョ
コレートを贈る習慣が確立している。
 おそらく、製菓業者の陰謀だろう。

 第二次世界大戦直後、占領下の日本で、進駐軍のバレンタイン少佐が貧しい子供達にチョコ
レートを配った、と言う伝説もあるらしい。
 事の真偽はさだかではないが。

 問題は、彼女が、そのチョコレートを「必ず」自分で作る点にある。
 初めてそれを喰った俺が、次の瞬間目にしたのは、病院の知らない天井だった。
 俺が意識を失ってから、既に3日が経過していた。

 次の年、俺は万策を弄して、チョコを口にする事を回避しようとした。
 が、果たせなかった。
 チョコを食べた俺が目にしたのは、やはり、病院の白い天井だった。
 1週間入院生活を強いられた。威力が増している。

 3年目、さすがに懲りた俺は、受領を拒否しようとした。
 が、果たせなかった。
 俺が目にしたのは、やはり、病院の天井だった。
 今度は外科病棟だった。
  
 俺も男だ。女が、しかも愛する女が一所懸命作ったものを貰って、嬉しくない訳がない。俺
だって、そりゃ・・味はともかくとして・・美味そうな顔の一つでも見せてやりたい、と思って
いる事は思っている。

 しかし、その表情を作る前に、意識を失ってしまうのでは、努力のしようがない。

 そして・・本音を言うなら・・チョコを喰う、と言う儀式の後に待っているはずの、甘美な時
間こそが、俺が本当に欲しい物なのだ。
 だが、いまだその恩恵にあずかれた試しがない。一度チョコを喰う事を回避しようとした時・・
確か3回目・・など、「熊殺し」の異名を持つ、怒り狂った彼女に、完膚無きまでに叩きのめ
されたのだから。

 今さら受領を回避する事は出来ない。もう「それ」はここにあるのだから。
 
 俺に残された選択肢は2つ。

 諦めて、包みを開けるか。

 それとも……。





 ・・結局、その年も、俺は月末まで入院する羽目になった。
 


またまたALさんにSSを頂いてしまいました。
有り難いことです。
ALさんは「加持×ミサトファンに怒られるのではないか」と申されてますが
でんでん大丈夫…ですよね?(笑)
わしは入院するというリスクを犯しても「裸リボン」を拝みたいものですがね(爆)


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