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神楽坂権乃介

叶えられるはずのない「想い」

そう思ってた。

でも、今、あの人はここにいる。夢かもしれない。
それでも構わない。
あなたの傍にいられるのなら。
あなたの空気が感じられるのなら。

それだけで、いい。



あなたが僕の上司として赴任してきたのは、ほんの数ヶ月前だった。
新しい上司は女性だと聞いて、同僚の青葉は僕をからかった。

「きっと、堅そーなおっかない女だぜ」と。

「作戦部長」という肩書き上、そういったイメージは僕にもあった。
そんな中、僕は廊下で1人の女性に声を掛けられた。
その人は、ネルフのジャンパーを着ていたが見慣れない顔だった。
長い黒髪に女らしい身体のライン。成熟した女性を感じさせる空気を纏っていた。
すれ違う職員たちが降りかえって見ていた。

「あ、司令室ってどこかなぁ?」
「ここを真っ直ぐ行ったところのエレベーターの5Fですよ」
「ありがと」

彼女は微笑むとエレベーターの方向に駈けて行った。


その数時間後、彼女が僕の上司であることを知らされた。

「あなた、さっき会ったわよね!?」
「あら、顔見知りなの?」
赤木博士が彼女に向かって言った。
「うん。ちょっちね」
オペレーター席で交わされるおしゃべりも、彼女が加わったことで
華やかさを増した。

「よろしくね、日向くん」
差し出された手は暖かく柔らかだった。



彼女は、今時珍しいくらいの激情家だった。
でも、その分優しかった。
お酒が好きで、仕事中でもビールを飲んでいた。
そして、僕に「二人だけの秘密よ」と囁いた。

僕は、彼女のことをいつの間にか好きになっていた。
だから、そんなことだけで幸せだった。


あいつが現れるまでは。


海上輸送途中の弐号機が使徒の襲われた、という情報が本部に入った。
僕は弐号機よりも、彼女が心配だった。
続いて、勝利を収めた、という知らせに胸を撫で下ろした。
彼女は本部に戻って来たが様子がおかしい。
イライラしている。
いつもなら勝った後は機嫌が良いのに……。

理由はすぐに分かった。

セカンドチルドレンと共にやって来た男。そいつが元凶だった。
僕の一番嫌いなタイプの人間だった。
女性に軽そうで、お調子者で、誠実さのかけらもないような人間。
それが、加持リョウジだった。

彼女や赤木博士とは学生時代からの繋がりがあることを、伊吹2尉から聞かされた。
そして、葛城さんと付き合っていたことも。


苦しかった。焼けるようだった。

人には誰だって過去がある。彼女にだって勿論あるに決まっていた。
分かっているけど、どうしようもない感情が渦巻いていた。


彼女に気安く触れることができる、あいつが憎かった。


そんな思いが頂点に達したのは、当直で本部に残っていた時だった。
ネルフには様々なところに監視モニターが仕掛けてある。
通路はエレベーターも例外ではない。
深夜の屋内には動く影はそうあるものではない。
あるとすれば、当直で残っている者だけだろう。
僕はモニターをぼんやり見つめていた。
エレベーター内のカメラに、あの男が映っていた。

「こんな夜中に何の用があって残っているんだ?」
僕は思わず、呟いていた。

同じエレベーターに誰か乗り込んで来た。

彼女だった。

腕に、沢山の資料を抱えている。
あいつの方には向いていない。
あいつの口が動いた。
彼女が振り向く。あいつが彼女の左手首を掴み、彼女の両足の間に自分の足を割り入れた。

そのまま―。

彼女の唇は塞がれた。
そして、まるでカメラの目を避けるように、あいつは彼女を抱え込み、深く口付けていた。
彼女の手から資料の束が滑り落ちた。
彼女の腰を支えていた手が動き、スカートからシャツを引き抜く。

(―っ!!)
僕は思わず椅子から立ち上がっていた。
エレベーターから、彼女が降りた。
あいつは恭しく彼女に礼をしていた。


僕があいつを憎む理由はそれだけで十分だった。

そして、彼女も・……。
あいつの前でしか見せない表情を持っていた。

傍にいられればいいと思っていた。それだけでいいと思っていた。
でも、違った。

彼女が欲しかった。心も身体も、何もかも。

そのためには、あいつが邪魔だった。もしも、あいつがいなくなったら……。

彼女は、悲しみに暮れるだろう。
僕はその時に彼女を救えるのだろうか?
堂々巡りだった。考えても答えが出なかった。



参号機の起動実験のため、彼女は赤木博士と共に松代に出掛けた。
パイロットはシンジくんのクラスメートだそうだ。それを伝える彼女も心中穏やかではないだろう。
伝えるべきか否か、という相談を持ちかけられ、かなり迷っていたようだったから。

夕方、事件が起きた。
第一報が飛び込んで来た時に、何だか嫌な思いが胸をよぎった。

モニターには夕陽を背にした漆黒の参号機。
動きが明らかにおかしい。

「暴走」だった。

そして、彼女はその騒ぎに巻き込まれていた。
僕は席から立ち上がり、現場に急行しょうとした。
青葉が、僕の腕を掴んだ。

「おい!気持ちは分かるが今は仕事中だ。これが原因でクビにでもなったら
葛城さんとの接点はなくなるぞ!いいのか!?」

その言葉に、ハッとした。真理だった。
落ち着かない気持ちで再び腰を下ろした。

ダミープラグが使われ、初号機はシンジくんの意思と関係なしに動いた。


「使徒殲滅」
周りには血糊が飛び散っていた。

(―葛城さんは!?)

「……ああ、そうか。葛城くんと赤木君は無事なんだな。御苦労」
副指令が電話で話をしていた。
「引き続きそちらに留まって報告を頼むよ、加持くん」

なぜ、あいつが彼女の傍にいる?僕じゃ駄目なのか?

その晩、僕は意識がなくなるまで酒を飲んだ。こんなに彼女を愛しているのに、伝わらない思い。
悔しくて仕方がなかった。


翌日、二日酔いの中で思った。
「報われなくても構わない」と。
彼女の傍で、彼女の力になれるのならそれでいい、と。



「よお。ちょっと時間いいかな?」
シンジくんが初号機に取り込まれ、サルベージ計画が始まろうとしている日のことだった。
昼時の食堂は混雑していた。
あいつは、目立たない隅の方のテーブルを選んだ。

「何でしょうか?」
僕はぶっきらぼうに答えた。

「葛城のことだ」

あいつの目は真剣だった。

「単刀直入に言おう。君は葛城のことが好きだろう?」
「ええ」
「彼女を愛したいと思うなら、過去も、心に受けた傷も全て受け入れなければいけない。
君には、それが出来るか?」
「・……。出来ますよ」
「なら、葛城の何を知っている?せいぜいセカンドインパクト唯一の生存者ということぐらいだろ?」
「何がおっしゃりたいんですか?」
「その人間の表面だけを見て、受け入れられるなんて思うもんじゃない。
彼女は、君が想像するより、ずっと辛い道を辿って来た。
支えることが出来ると言うのなら、ここを調べて見ろ」

あいつは僕に1枚のメモを渡すと席を立った。

メモにはコードが記されていた。しかもそのコードを解析するためには
何重にも張り巡られたプロテクトを解かねばならなかった。


その晩、僕は慎重にプロテクトを外す作業にかかった。
一度でも失敗すれば、捕まる。
緊張で指先が震えた。

それは個人データだった。
彼女のデータも勿論あった。あの事件があった後、失語症に陥ったこと。
その治療がどんなものであったかということ。

僕は声を失った。
彼女の過去。今からはとても想像し難かった。
でも、これで何かが変わった訳ではなかった。これで、もっと彼女を愛することができる。

そして、あいつのデータ。
(何だこれ?スパイ!?でも、ここにデータがあるってことは指令は知っていて……)
一気に情報が流れ込んで来たためか多少混乱してきたようだ。
僕は作業を終わらせた。エアコンの効いた室内にも関わらずシャツは汗でぐっしょりとしていた。


翌日、シンジくんは救出された。彼女は泣いていた。
声を掛ける間もなく、彼女は帰ってしまっていた。


「おはようございます、葛城三佐」
「おはよう」
彼女は気だるそうに返事をした。いつもよりも艶っぽい感じがした。
髪を掻きあげる動作一つとっても。

首筋にほの紅く残る跡。
情事を物語る痕跡だった。

僕は瞬時に二人が「元恋人」から「恋人」に戻ったことを悟った。

その日、彼女は何時間も行方が分からなかった。誰に聞いても分からなかった。
副指令も見かけない。そして、あいつの姿さえも。

彼女が姿を現したのは、夕方だった。
僕の問いに何も答えず、帰ってしまった。

僕は再びハッキングを試みた。


そこで、加持リョウジがネルフによって消されたことを知った。

(まさか、あいつこのことを予測して……。彼女はこのことを・・…?)

それからの数日間、彼女はおかしかった。無理もない。あんなことの後では。
でも、僕があいつの立場であったなら彼女を悲しませることはしなかった。
愛している人の悲しむ顔は見たくないから―。


僕は意を決して彼女のプライベートルームに向かった。
時計の針は午後10時を指していた。

「日向です。失礼してもよろしいでしょうか?」
僕はノックをした後、中からの返事を待った。

「日向くん?いいわよ、入って」

覇気のない返事だった。
彼女の顔には疲労の色が滲んでいた。よく眠っていないのだろう。

「どうしたの?こんな時間まで仕事?」

僕は大きく息を吸い込むと、溜まっていた思いを吐き出すように言った。

「あなたが好きです」

彼女は何も答えなかった。

頭に血が上っていった。彼女の答えが怖かった。でも、伝えもせずに終わりたくはなかった。

「今、こんなことを言うのは卑怯かもしれません」
恋敵がいなくなったとたんに反撃にでるなんて我ながら姑息だ、と思った。
僕は彼女の目を見つめた。

彼女は黙ったままだった。
「葛城さん?」
僕は、不安に駆られ彼女を見つめた。

ふいに彼女が椅子から立ち上がり僕の傍に来た。彼女の指が僕の頬に触れた。
一瞬、緊張のためか僕の身体は強張った。
(ひっぱたかれるかもな……)
そう思い覚悟をした。

「怖い?」
予想外の彼女の言葉。どういうことか理解出来なかった。彼女は続けて言った。

「私のこと……愛してくれる?」
僕は自分の心臓が早鐘のように鳴っているのを感じた。自分の心臓の音で周りの音が聞こえない程だった。
彼女は羽織っていたジャンパーを床に脱ぎ捨てた。
そして、ワンピースの胸元のボタンを幾つか外した。下着のレースがちらりと見えた。

「僕でいいんですか?加持さんはもういいんですか?」
彼女はあいつのことを忘れたりしないだろう。思い出なんて簡単に棄てられない。
僕は彼女と寝ることが目的じゃない。

「いいのよ……。もう戻ってこないから。知ってるんでしょう?加持がどうなったのか」
僕は思わず彼女を見つめた。
「だから私に告白したんでしょ?」
否定できなかった。事実だったから。

彼女が僕の手を取った。僕の手は緊張で震えていた。彼女は僕の手を自分の胸元に導いた。

「ここには、もう誰も来ないわ」
僕の思いを見透かすかのような彼女の言葉に身体が強張った。
彼女が望むことを叶えたかった。辛い思いはさせたくなかった。僕の心は決まった。

「いいんですね?僕で」
彼女を救いたい。僕の力で何とかできるなら力になろう。そう思った。

「ええ」

僕は彼女のワンピースのボタンを下まで外した。
開かれた胸元からのぞいている、ブラジャーのフロントホックを外した。
乳房が柔らかに解放され、揺れた。
彼女の胸は予想よりも豊かだった。そして、白かった。
僕は、彼女の乳房を下からそっと持ち上げた。確かな弾力と重さがあった。
指に力を込め揉んだ。最初は優しく、徐々に段階を付けていった。
僕の手の中で乳房は形を変えた。そして、力を込める度に彼女の呼吸が荒くなっていくのも分かった。
次第に乳首が隆起して来る。つん、と立ったそこは、彼女の恥じらいを示すかのように紅かった。
軽く刺激するだけで彼女の呼吸は激しさを増し、切なげな声が漏れてきた。
細い声。初めて聞く艶やかな声だった。
その声は僕の「男」を刺激していった。
僕は彼女の乳首を口に含んだ確かな硬さを持ったそれを舌先で弄ぶ。
軽く歯をあてがうと、彼女は声を上げた。

「あ…んんっ、そんなに…」
甘い声で答える彼女に少し意地悪をしたくなった。
「そんなに、何ですか?」
僕は、わざとそんな質問をした。
彼女の細い首筋に口付けた。目立たないところにきつく跡が残るように。
「大丈夫ですよ。見えないところにしましたから」
そう、僕はあいつとは違う。

僕は再び彼女の胸に触れた。柔らかい。こんな感触のものは他に存在しないのではないだろうか。
胸をまさぐるうちに下の方にある傷跡に触れた。
僕はその傷跡を指でゆっくりとなぞった。何度も何度も。こんな大きな傷跡を背負って彼女は生きてきた。
僕は彼女を愛しく思った。
「痛みはないんですか?」
「……ないわ。感覚自体が鈍っているから。それよりこんな女、嫌でしょう?今ならやめられるわよ」
彼女は泣きそうな顔をしていた。
僕は彼女を真っ直ぐ見つめた。


「あなたがセカンドインパクトの生き残りであることは知っています。
葛城博士があなたを庇ったことも。
その後、あなたがどう状態に陥ったのかも。
ハッキングしたんです。好きな人のことは何でも知りたかった。
今、あなたはここにいる。
僕はあなたが好きです。
それだけじゃだめですか?」

僕は素直な気持ちを彼女にぶつけた。そしてそっと彼女に口付けた。
舌を差入れると彼女は僕を受け入れた。
溶けるような感覚が僕を襲った。キスがこんなに気持ちがいいなんて知らなかった。
僕は貪るように彼女の舌を求めた。
唇を離す頃には、唾液が糸を引いていた。

もう、押さえきれなかった。
僕は彼女のスカートの裾に指を忍ばせた。
ゆっくりとスカートをずりあげると白い太腿が露になった。
僕は床に片膝をつきそこに口付けた。そのまま彼女の靴を脱がせると足の甲にも
口付けた。
(あなたのためなら、僕は何でもできる)
そう思った。

「あなたが好きだ」
堪え切れずに僕は言った。ずっと秘めてきた思い。言わずにいられなかった。
僕は彼女の下着越しに彼女の「女」に触れた。
熱を帯びているのが分かった。同時に内部に触れたいという激しい欲求が僕を襲った。

「あなたが・…欲しい。あなたが加持さんを愛していたとしても、一つに・…なりたい」
僕はありったけの気持ちを彼女にぶつけた。
代わりでもいい。彼女がそれで救われるのなら。

「私のこと、愛してくれる?置いていかないでくれる?」

彼女は孤独に震える子供みたいな目をしていた。
僕はあなたを一人になんかしない。

僕は答えるかわりに彼女に口付けた。


僕は彼女を机に浅く腰掛けさせ、片足を持ち上げ下着を抜き取った。
部屋の電気は消さなかった。彼女をしっかり見たかったから。

「お願い・…電気、消して……」
だから、彼女の要求にも答えなかった。
彼女の身体を机の上に倒し、足は僕の肩に乗せた。
僕はしゃがんだままの姿勢で彼女の足をしっかり固定した。

目の前に彼女の「女」の部分が曝け出されていた。
僕は入口を指でそっと開くとそっと舌を這わせた。
彼女の「匂い」がし、舌に彼女の「味」が伝わってきた。
とろり、とした感触。
それは、奥から枯れることのない涌き水のように湧き上がってきた。
僕は何度も何度もそれを舌で掬い上げ舌先で愛撫を加えた。
でも音は立てなかった。きっと彼女は嫌がるだろうから。直感的にそう思った。
次第に彼女の内部が開かれていく。他人を受け入れるために。

僕は舌を離した。それと同時にくちゅっという音がした。
彼女の腿の内側は僕の唾液と彼女自身の液体でぐっしょりと濡れていた。

「葛城さん……。感じてくれてるんですね」
でも、この言葉は嘘かもしれない。女性は感じていなくても濡れる。
女性に対して「口では嫌がっていても身体は正直だ」という安っぽい台詞を吐く男がいる。
それは嘘だ。
自分の身体を守るために、傷つかないために内側から濡れる。

だから、彼女も本当は感じていないのかもしれなかった。
それでも良かった。彼女が一瞬の快楽の中で心の痛みを忘れてくれれば良かった。


彼女の背にそっと手を添えて机の上に仰向けに寝かせた。

「「あ、あのっ、すみません。葛城さんの意志も確かめずに」

僕は自分の先走った行動に顔が赤くなった。
僕のあせった顔を見て、今までずっと硬かった彼女の表情が緩んだ。

「あ、葛城さんやっと笑ってくれたんですね」
嬉しかった。思いが素直に口をついて出た。あいつがいなくなって以来、彼女は笑顔を見せなかった。
だから今、とてつもなく嬉しかった。

彼女の手が僕のうなじに回り、顔を引き寄せた。

彼女の方からの口付だった。僕を受け入れてくれた、ということなのだろうか。

「いいんですか?」
我ながら無粋な言葉。
「あんまりそんなことばかりいってると女の子に逃げられちゃうわよ」
「いいんです。葛城さんさえいれば」
他の女なんてどうだっていい。あなたさえいれば、他に何もいらない。歯の浮くような台詞でも
あなたのためなら言える。何だって出来る。

僕は彼女の両足を持ち、M字型に開いた。背中は机に乗っているが足は不安定なままなので
僕が支えている形になっていた。

既に大きくなり熱を持った僕自身を彼女の入口にあてがった。
十分過ぎるほど湿った彼女の中に僕はゆっくりと腰を落とした。

彼女の内部に分け入る。入口に抵抗を感じた。まるで何か弾力のあるものを突き破るような感覚だった。
少しだけ力を入れると滑らかに滑り込むことが出来た。
その後は、ぬめった液体に導かれ完全に彼女との結合を果たした。

暖かで包まれている感じがした。月並みな表現だけど他に例えようがなかった。
何もしていなくても感情の昂ぶりのせいか汗が噴出してきた。
彼女を壊してしまいたい衝動に駆られた。

「葛城さん」
僕は彼女に声をかけ、膝の裏に手を置き少し力を入れた。彼女の腰が少しだけ浮き上がった。
僕は沈めていた腰を引く。するとじゅぶぅっという湿った音が聞こえた。
再び腰を落とし込み、何度も往復させた。
僕が前後する度に淫靡な音が部屋に響いた。
何の音もしない部屋の中にくちゅ、くちゅ、と粘膜の擦れ合う音。
そして机の小さく軋む音。
彼女の喘ぐ声。荒い呼吸。

僕は彼女の中の「加持リョウジ」の影を消し去るように激しく腰を打ちつけた。
不可能だって分かってる。
あいつは彼女の全てを受け入れ、彼女も与えた。
そして「死」によって彼女の中で「永遠」になった。朽ち果てることのない永遠になった。

一瞬だけでいい。彼女の中からあいつを消し去りたい。
そんな思いが僕を支配した。

僕は彼女の一番敏感な部分にそっと指をあてる。
そこは充血し、肥大しきっていた。
指先に彼女の粘液をつけそっと押すように、撫でるように柔らかく刺激した。
腰の動きと同時に揺さぶり、彼女を追い詰めていった。

「やめて」

それは本気の言葉じゃない。

僕は胸の突起を軽く摘む。腰は動かしたままだ。

彼女の腰が浮き上がる。
自分の神経が浮き彫りになっていく感じがした。
熱い感覚が僕を支配していった。

「あ、ぁっ、んっ……ああっ……!!」
「葛城さんっ!!」

彼女の内部が収縮し、僕を締め付けた。
全てを吐き出したい衝動を押さえ、外に出した。
彼女の身体の上で何度か脈打ち、劣情は収まった。


汗で濡れた僕の額に彼女がそっと口付けた。


つづく