KAKURAS A神楽坂権乃介
「あなたが好きです」
ネルフ内の私の仕事部屋にやってきた彼は、突然そう言うとうつむいた。
見る見るうちに彼の頬は紅潮していった。
私は何も答えない。
「好き」という言葉。
それは、決して得られる事のなかった言葉。
「今、こんなことを言うのは卑怯かも知れません…」
彼は意を決したように顔を上げ、私の目を真っ直ぐ見つめる。
「好き」という言葉を欲した時もあった。言葉なんかいらないと思っていた。
でも……。
(今度会えた時には、8年前に言えなかった言葉言うよ)
それが私の欲していた言葉だったとしても、叶えられることはないだろう。
決して。
「葛城さん……?」
彼が不安そうな表情をしている。
日向マコト。私の部下。
ただの上司と部下の関係だとは思っていなかった。
気付いていたから。
彼が私を見る目が、他の人に向けられるものと違っていたこと。
私がそれに気付かないふりをしていたこと。
彼が、あいつを避けていたこと。
そう、加持が生きていたら「上司と部下」でいられただろう。
日向くんの気持ちを無視し続けることも出来ただろう。
耐えられない。
寂しい。
どうして私を一人にするの?
お父さんもそうだった。
怖くて何も出来なかった。
そして加持がいなくなって、もう戻ってこないと確信した時
ただ泣くことしか出来なかった。
今、目の前にいる彼は私を一人にしないだろうか。
保証はどこにもない。
また1人にされるかもしれない。
けれど今は……
たった1%の望みでもいい。
この渇きを癒してくれるのなら。
「好きだ」と言ってくれるのなら。
愛してくれるのなら。
私は、腰掛けていた椅子から立ち上がり、彼の傍に行った。
そして頬に触れる。一瞬彼の身体が強張った。
「怖い?」
私は、未経験の少女に尋ねるように言った。
その言葉が意外だったのか、彼は戸惑っていた。
「私のこと……愛してくれる?」
自然に口をついて出た言葉。
彼の返答を待たずに、私はジャンパーを脱ぎ捨て床に落とす。
パサリという音が室内に響いた。
ワンピースのボタンをいくつか外す。胸元がはだける。
「僕でいいんですか?加持さんはもういいんですか?」
私を見ずに彼はぽつりと言った。
「いいのよ……。もう戻ってこないから。知ってるんでしょう?加持がどうなったか」
彼はハッとした表情で顔を上げる。
「だから私に告白したんでしょ?」
我ながらなんて意地の悪い質問。
彼の手を取り、胸元にあてる。その手が小刻みに震えているのがわかった。
恐怖のためではない。理性と欲望がせめぎあっているのだろう。
「ここには、もう誰も来ないわ」
胸にあてられた彼の手がピクリ、と動いた。
「いいんですね?僕で」
彼は確認するように言った
先刻までと違う意志のこもった声。
「ええ」
この渇きが癒されるのなら。
彼の指がブラジャーのフロントホックを外す。ぱちん、という小さな音とともに
押さえられていた乳房が解放され、柔らかに揺れる。
彼は、手のひらでそれを持ち上げる。
そして添えられた指先に力をこめる。
優しく、強く、段階をつけながら私の乳房を弄ぶ。
乳房は、指が動く度に別の生き物のように形を変えた。
そして私の欲望を表すかのように乳首が隆起し始める。
彼の指が先端を刺激しながら、繰り返し繰り返し乳房を揉んだ。
呼吸が乱れていく。細い声が漏れる。
まるで自分の声でないように思える。
「・……っ、んぁ……」
堪え切れず声を上げてしまう。
それに反応するかのように、彼は私の乳首を口に含んだ。
舌先で転がし、軽く歯をあてる。
絶え間ない刺激に私は声を上げる。
「あ…んんっ、そんなに…」
「そんなに、何ですか?」
そう答えた声は、笑っているようだった。
彼の舌が首筋をなぞり、一点にきつく口付ける。
「大丈夫ですよ。見えないところにしましたから」
私の気持ちを見透かすように彼が言った。
加持とは違う。あいつはそんなことお構いなしだった。
私が反論すると決まってこう言った。
「葛城が俺のお手つきだって印さ」
乳房を弄られる感覚に私は現実に引き戻される。
胸の下で一瞬、彼の指が止まる。
傷。胸の下を斜めに走る大きな傷。
加持は「その傷のお陰で君は助かったんだろ?」と言った。
日向くんはどうなのだろうか。
この忌まわしい傷跡をどう思うのだろう。
彼の指先が傷跡をなぞる。
何度も何度も。
「痛みはないんですか?」
指から伝わる体温がそこから拡散していく。
「ないわ。感覚自体が鈍ってるから。それより
こんな女、嫌でしょう?今ならやめられるわよ」
彼の目が真剣になる。
「あなたがセカンドインパクトの生き残りであることは知っています。
葛城博士があなたを庇ったことも。
その後、あなたがどう状態に陥ったのかも。
ハッキングしたんです。好きな人のことは何でも知りたかった。
今、あなたはここにいる。
僕はあなたが好きです。
それだけじゃだめですか?」
彼はそっと私に口ずけをした。
壊れ物に触れるような口付けだった。
そして、舌が口内に差し込まれる。
私の舌を彼の舌が絡め取る。
それは、幾度も繰り返され、唾液は糸を引いていた。
粘膜と粘膜。熱く湿った感触。
頭の中が白くなる。
何も考えられなくなる。
私を必要としてくれるならば。「好き」だと思ってくれるならば。
あいつを忘れることは出来ないけれど、今だけは別の自分になれる。
そんな気がしていた。
スカートの裾から指が滑り込む。
スカートがずり上がり太腿が露わになる。
彼は床に片膝をつき、私の腿に口付けた。
軽く片足を持ち上げ、靴を脱がすと私の足の甲にも口付けをする。
端から見れば「女王様と下僕」のような光景だろう、と思った。
「あなたが好きだ」
呪文のように囁かれる言葉。
どうして人は他人を愛するのだろう。
どうして求めずにはいられないのだろう。
あいつとあんなにも睦み合っても分からなかった。
私は……、何をしたいのだろう。
下着越しに彼の手が、私の「女」に触れる。
柔らかな丘を包むように優しく揉む。
熱を帯び、湿っているのを自分でも感じる。
「あなたが……欲しい」
搾り出すような声。渇望。
「あなたが加持さんを愛していたとしても、ひとつに……なりたい」
「私のこと、愛してくれる?一人で置いて行かないでくれる?」
聞き分けのない子供みたいだ、と自嘲する。
それでも、それでも私はもう一人になりたくない。
8年の歳月を越えて手に入れた安堵も消え去った。
目の前に差し出された救いの手を拒めない。
背徳であっても。
あいつが生きていたら、こんな私に悲しそうな目を向けるのだろう。
でも、もう、いない……。
ならば愛してくれる人に縋ろう。
それなら、生きて行ける。
私の質問に答える代わりに、彼は私に口付けをした。
彼は、私を机に浅く腰掛けさせた。
片足を持ち上げ、するり、と下着を抜き取る。
部屋の電気はついたままだ。どうしようもない羞恥心が私を襲う。
「お願い……電気、消して……」
私の哀願を無視するように、彼は私の両足を持ち上げると
自分の肩に乗せた。
彼の目の前に、私の「女」が露わになる。
刹那、温かな感触。
指で開かれ、液体でぬめっている内部に彼が舌を這わせている。
他人の目に自分の性器が曝されている。
初めての経験ではない。でもこればかりは慣れることはできない
自分の頭に血が上る。全身が熱くなる。
「恥ずかしい」「やめて欲しい」理性は拒否しても、身体は彼の舌に応じている。
私は、自分の中の「女」である面を呪いたくなる。
最愛の人が死んで、数日も経たないうちに男と寝ようとしている。
自分の「女」を曝け出して、愛撫されることに快感を覚えている。
自己嫌悪。
学生時代、加持に嘘をついて別れたこと
再会しても素直になれなかったこと。
そして、自分のためだけに日向君を利用していること。
最低。自分に嫌気がさす。
くちゅ、と湿った音。
彼が舌をゆっくりと離すと同時に、そんな音がした。
何度も聞いた音。
私が嫌がっても、加持は強引に舌を差し入れ音を立てた。
恥ずかしがる私を見て何を思っていたのだろう。
「葛城さん……。感じてくれてるんですね」
自分でも分かるくらい濡れている。
足をわずかに動かしても、ぬるっとした感覚がある。
そして、私の腿の奥の方は彼の唾液と私自身から出た液体で湿っていた。
「もう我慢出来そうにありません」
そう言うと机に腰掛けていた私を手で支えながら、仰向けに倒した。
その手は優しく暖かかった。
「あ、あのっ、すみません。葛城さんの意志も確かめずに」
彼の狼狽した表情に、私の心が少しだけ解けた気がした。
思わず頬が緩んだ。
「あ、葛城さんやっと笑ってくれたんですね」
嬉しそうな声。優しい人だと思う。
寝たら、きっと傷つけることになる。分かっているのに……。
私は彼のうなじに手を回し、自分から口付けた。
「いいんですか?」
「あんまりそんなことばかり言ってると女の子に逃げられちゃうわよ」
「いいんです。葛城さんさえいれば」
歯が浮くような台詞なのに、彼は顔色ひとつ変えていない。
ちく、と胸が痛んだ。
彼が私の両足をM字型に開く。上半身は机に乗っているが、下半身は彼が支えている。
既に膨張しきった彼自身が入り口にあてがわれる。
そこは十分過ぎるほど湿っていて、彼が腰をゆっくりと落とすだけでよかった。
くちゅぅ
「ん…っぁあ」
粘度のある音と共に彼が侵入してくる。異物感はすぐになくなり体温を感じる。
熱い、と思った。
彼の呼吸が荒くなる。まだ動かしていないのに汗だくだった。
「葛城さん」
そう呟くと彼は私の膝の裏を持ち少し力を入れる。
腰がわずかに浮き上がる。
彼が腰を引くと、じゅぶぅという音。
それに触発されるように、彼は腰を使い始めた。
机が小さく軋んでいる。
くちゅ、くちゅ、という音は次第に大きくなる。
私達以外に誰もいない部屋の中に、粘膜が擦れ合う音が響いた。
彼の腰が前後するのに合わせて、私は声を上げる。
体温が寂しさを忘れさせる。
理性が揺らぐ。
彼の先端が、奥に突き当たる。自分でも触れたことのない場所に他人がいる。
身体の中、奥深い場所、生命を生み出す場所。
そこに他人がいる。
何も考えられないほどの快楽の中でさえ、そんな事を思う。
でも心には届かない。
それでも、いい。
離れないでいてくれたらいつか届くかもしれないから。
肌がぶつかる音、荒い呼吸の音、粘膜の擦り合いから生まれる音。
欲望の音。
彼の指が、私の中の小さな蕾に伸びる。
指先に溢れる蜜をつけ柔らかく刺激する。
腰の動きと同じリズムで強弱をつけながら。
背骨を何かが上っていくような、電気が走るような感覚。
絶頂が近い。私は声を上げる。
「やめて」と。
言葉とは裏腹に心ではその時を待ち望んでいる。
浅ましい女だ、と思う。
彼は指を離すと、胸の先端を軽く摘む。
腰は動かしたまま。
振動と新たな刺激に、自然と腰が浮き上がる。
「あ、ぁっ、んっ……ああっ……!!」
「葛城さんっ!!」
反り返る私の身体に白濁した液体がかかる。
体温と同じで温かかった。
私は汗で濡れている彼の額にそっと口付けた。
つづく
スカー
つづうつづく足あ彼のが彼の
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