父が全てをかけた実験の結末。
その実験によってセカンドインパクトが引き起こされた事は、疑う余地がなかった。

何十億と言う人々を一瞬にして蒸発させたセカンドインパクト。
地球の地軸は曲がり、巨大な津波が起こり、山は崩れ、全ての沿岸都市が海に沈んだ。
人類史上かつてない大惨事。
恐ろしい、巨大隕石の突然の衝突。

だが・・・それは事実ではない。
それは、僅か14歳の女の子の、まだ華奢な手によって引き起こされたのだ。

だからこそ、葛城博士はミサトの記憶を誰にもとかれないよう封印したのか。この事実に耐えられ
るまでは我が子の心を守らなければと思ったのだろうか。ただ、その事実がミサトの記憶から盗み
だされる事を怖れたのだろうか。

いずれであったにせよ、責任はあくまで上層部の意向を無視して暴走した葛城博士が負うべきもの
であった。だが『ミサトが背負うべきものではない。』と幾ら言われたところで、事態のトリガー
が自分自身ということを知った人間の気持ちが、幾らかでも安らぐなどということがある訳も無か
ったのだった。





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     第13話  『氷雪の風景』                こめどころ

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ふと目を醒ます。その前には加持の顔があった。


「葛城、大丈夫か。」

「加持。」


まだ酷く眠い。微睡みの中に揺らいでいたかった。加持の息はいつもの煙草の香りがする。
髪の毛も、その指も、汗も、唇も。私が抱かれる胸も。


「煙草・・・少しは減らしなさいよ。すっかり煙草虫になっちゃったのねえ。」

「おまえ、人のこと言えるのか。俺より吸うんじゃないか。」


加持と付き合い出した頃。私にとって煙草は単なるアクセサリーでしかなかった。ちょっとした
小道具。相手に印象を与える為のもの。だから加持と同じ銘柄の煙草をいつも吸っている。だから
私も加持の匂いがする。私は加持の女。髪の匂いも一緒。Tシャツもジーンズも、皆加持の匂いが
する。一夜のベッドを共にすると、そのシーツやベッドマットまでもすっかり加持の匂いになって
いる。

加持ぃ・・・・

手を伸ばして加持に触れようとするが眠気に負けてしまう。それでもうつ伏せになった背中に加持
の肌を感じる。身体中を動き回る加持の手。次第に身体が熱を帯びてくる。こんな感じにまで追い
上げられたら、普段ならもう覚醒してくるはずなのに・・・頭の芯に鉛が流し込まれでもしたよう
に、現実感のない動きに感じられる。

・・・私、濡れてる

そんな事ばかりが意識される。今はもっと大事な事があったような気がするのだけれど。

・・・私、濡れてる

奥底から涌き上がってくる、獣のような情慾に身を委ねたいと思い、身体をくねらせている。


・・・そうよ、ケダモノよ。地上では何百万と言う人間が死を目前にして喘いでいると言うのに。
私は、男を欲しがって喘いでいる。四肢を投出し腰を反らし、赤い性器を持ち上げて振っている。
・・・お願い、焦らさないで。お願いだから、私を抱き上げて、私に戒めを。貫いて。

その甘美な粘液を欲してるの・・・恥ずかしい姿態をその為に曝け出してるの。


腰骨に男の手がかかる。荒い息が私の顔にかかる、吹き零れている私の恥知らずな場所に押し付け
られた男のモノが、何の労りも優しさもなくただ突き込まれる。ずぶずぶと身体の中に分け入って
来る異様な感触に、うめきを漏らすだけで、叫ぶのを堪えた。だけどそれも一瞬のこと。

瞬間弾けるスパーク。蕩けるような快感。何処かで女の嫌らしい嬌声が響く。
あれは誰?あれは私。
恥知らずに反応を返し、男の背に爪を立て、幾度も幾度も絶頂に向かって駆け上がってしまう。


・・・加持。

・・・加持?

・・・加持よね。

・・・加持じゃなきゃ、こんなに感じない。こんなに反応しない。こんなに悶えない。


嘘よ。ホントは誰だっていいのよ。どこの男のモノだってあたしはくわえ込むもの。
どうしようも無いくらい私は淫乱で、救いようが無く恥知らずなんだもの。
だからこの大勢の人が死んで行く瞬間に、男の精を欲して悶え狂ったりできるのよ。
死んでしまえばいい、こんな淫靡な精神と身体を持った女は。

指を・・・何時の間にか差し込んで、ぐちゃぐちゃのスリットをいやらしく撫で上げている。


「はっ!」


再び跳ね起きた。そこは、一目で分かる電子の檻の中だった。


『お目覚めかね。』


股間が恥ずかしい程濡れそぼっているのに気づき、シーツをかき寄せた。声は壁の高い位置に据え
られたモニターから流れ出していた。この痴態を奴はずっと見ていたのに違いない。


「何だって言うのよ!私の記憶をいじって何かを吐き出させようとしても無駄よっ!」

『おやおや、夢だとでも思っているのかね。間違えなく今思い出した心象は君自身が体験した記憶
の箱の中から取り出された物だ。君は混乱し自分を見失った。だからこの君にとって最も心地よい
記憶を引っ張り出して来て、それに縋っているのだよ。君に取ってそれは、彼とのまぐ合いの記憶
だったようだな。いや、けっこう。若者らしい生命力に溢れた行為では無いか。』

「か、観察してたと言うのっ。」

『脈動、体温、分泌物。全てをな。それが君の記憶を開くキーの一つかも知れないとなれば、
全てを把握しておく必要がるのは、当然だろう。』

「馬鹿やろうッ、この腐れ外道がッ!」


まっ赤に顔を染めたミサトの靴がモニターを直撃するとその画面は粉々に砕け散った。

身体の彼方此方に貼り付けられた端子をべりべりと引き剥がす。こいつらが今の夢をどこかに送信
していたと思うと無駄とは思いながらもそれを積み重ねて靴の踵で踏みにじってやりたかったが、
あいにく柔らかな靴型のフェルトサンダルしか履いていなかった。もう一個のハイヒールは、今の
騒ぎで何処かに飛んでしまって見当たらなかった。椅子も、机も固定されて持ち上がらない。2、
3個の端子を、歯で噛み潰したらやっと気が済んだ。どうせまた貼られるんだと思い、あきらめて
ベッドに座り込んだ。


「ちょっとッ!ここにはシャワーくらいないのっ!大事な参考人ならそれなりの扱いをしないと、
何も喋ってやらないわよっ。」


壊れたモニター脇のスピーカーが答えた。


『それは失礼したな。君の正面のトイレがあるだろう。そこに入ってボタンを押せば全方向から、
シャワーが吹き出る仕組みになっている。一日何回でも使ってくれたまえ。』


正面は段差の付いた壁になっており、そこに便器がセットされていた。便器を格納すると半透明の
壁がスライドされて出てくる、内側のクリップを外すと首から膝までくらいが隠れる様に薄いドア
が開く。半自動になっていて、何か細工をする余地は全く無かった。


「ちっ、可愛げの無い設備ね。」


悪態をつきながらそれでもシャワーを浴びる事にした。身体がべたべたして堪らなかった。どうせ
見えないようにモニターされているんだと思って、覚悟をきめると、バッと今迄着ていたパジャマ
と下着を脱ぎ捨て、丸めてベッド下の奥へ放り込み、堂々とシャワーを浴びた。
ボディーソープからシャンプー、リンス。洗髪から乾燥迄全てを一通り機械がしてくれる。


「昔見たマンガの科学万能の未来世界って、こんなだったかしらね。」


緊張より、こうなるとむしろこの組織の子供っぽい性格の反映のような気がして笑えた。考えてみ
れば、地震の予知やシミュレーションまでできる科学力など、秘密のうちに持っていてどういう使
い道があるというのだろう?世界征服?ハ!馬鹿らしい。
父が私を使って起動させようとしていた巨大ロボットだってそうだ。軍事的に見れば全く無意味な
形態じゃないの。垂直歩行なんて、目標として撃って下さいと言わんばかりだ。
思わず薄笑いが浮ぶ。
シャワー脇の引き出しをあけるとバスタオルが現れた。歯磨き粉も歯ブラシも。小型のドライヤー
とブラシ、化粧用品も。何れも柔らかいチューブに入っていて、武器にはならない。ドライヤーも
コードも全て使い捨てらしい華奢な作りだった。


「世界中の諜報機関がいたいけな小娘を追い求めて大騒ぎか・・・ばっかみたい。」


それでも新しい技術や、飛び抜けたアイデアに一度は飛びつかずにはいられない友人の顔をちらと
思い出した。あの子がこういう組織のメンバーになるのかしらね。肩からバスタオルを被っただけ
の格好で髪を整え、化粧も済ました。


「食事の時間だ。出てくれ。」


ドアの外から声がした。ドア下から差し出された手を足で思い切り踏んづけてやろうと思っていた
が、意外な事に声はクローゼットから服を取り出して着るようにと続けて言った。どうやら食堂迄
案内してくれるらしい。


「エスコートが付くとはね。紳士的なんだか何なんだか・・・」


ぶつぶつ言いながら壁から現れたクローゼットを開く。中身はびらびらして動きにくそうなワンピ
ースばかりだ。それも身体にぴったりした細身の。こういう所だけ抜かりがないから嫌われるんだ
わよ・・・ろくに動けやしないじゃない。


「ちょっと!なによこれ。」


再びミサトの叫び声。何かまた気に食わない事を見つけたらしい。


『なにかな。』

「どうして下着が上しかないのよ。」

『ふむ、ブラがないと君が困るだろうと思ってな。下迄は気が回らなかった。まあワンピースだし
大人しくしていれば問題はなかろう。足を振り回して先日のように部下の顎を砕かれては困るから
な。その服も余り丈夫な訳ではない。大切に着て欲しいものだな。ははは。』

「やっぱりそれか・・・憶えてなさいよ、このひひ爺いっ!」

『残念ながらまだそう言われる程の年ではない。あくまで合理的予防措置と言う事だ。』

「うるさいっ!」


別に銃を突き付けられている訳ではないが、懲りたのか、若いガードが2人も待ち受けていた。


「ふ−ん、ちょっとしたお姫様扱いね。室内との落差を何とかできない訳?」

「噂通り、よく喋るお嬢さんだな。俺の名は青葉。こっちは日向だ。」

「なんなのよ。あんた達背は高いけど、まだ子供じゃない。」

「子供?まあ確かにあんたよりは年下かも知れないがな・・・遥かに地獄は見て来てるよ。」

「大学でぬくぬくしてたお姉さんには負けませんよ。くっくっく。」

「さあ、そっちの赤い線に沿って歩いて行ってもらおうか。お嬢さん。」

「お嬢さんじゃなくて、葛城さんて呼んでくれるかしら、ぼく。」


少し髪の長い男が、かっとしたように目を見開いたが、すぐに殺気を納めた。自分の役割を、思い
出したのだろう。もう一人の眼鏡の青年は一見優しそうに見えたが蛇の様な感じの、ミサトが最も
嫌う、陰険インテリタイプだった。


「僕達にそういう口も聞き方はしない方がいいですよ。泣くのはお姉さんですから・・・」

「どう鳴かせてくれるのかしら、まだそっちの経験も無さそうだけど。さくらんぼちゃん。」


口で負けているようなミサトではなかった。途端に日向の顔が僅かに赤らんだ。

(「あらあら・・・意外とホントにウブなの?」)

だとしたら余りこの2人の挑発しては危険だ。ミサトは言われた通りさっさと通路を歩き始めた。



7つ目くらいのエアロックが開くと、そこは広大な食堂スペースだった。ガヤガヤと談笑の中で、
多くの人々が朝食をとっている。ミサトは思わず目を剥いた。ここに連れて来られてからこの方、
ずっと個室に閉じ込められていて、ここに来るの初めてであったがこんなにも多くの人間が働いて
いるとは思ってもいなかったのだ。


「やあ、来たね。葛城さん。」


連れて来られたテーブルで彼女を出迎えたのは吉嶺医師だった。そこには更にもうひとり。


「おはよう、ミサト。」

「お、お父さん・・・」


と言っても本物でない事もわかっていた。この男を傍に置く事でミサトの心は確実に緩む。それを
見越してこの組織の連中はこんな事をしているのだ。それはわかっているのだが、それでも父の顔
を見るのは嬉しかったし、心が潤いに満たされていくのがわかる。それが人間というものなのだ。
こんな親子の情愛を利用する真似までしても、自分の持っている情報は得る価値のあるものなのだ
ろうか。巨大な無尽蔵のエネルギーの理論?それともそれを体現するような物体であろうか。あの
南極の地下で私が父と行っていた実験の正体とは一体なんだったのだろう。


「お父さんと呼んでくれるのかい。うれしいね。」

「どうせそこにあるものなら、ある事にして楽しんだり利用したりするほうが楽しいわ。」


そう言うと皆が微笑んだ。後ろから肩ごしに声がした。


「うむ。至極合理的で真っ当な意見だ。さすがは葛城さんの忘れ形見だな。」


いつもの白髪の男。そして数人のガードらしき男達を引き連れた鬚の男が立っていた。
テーブルについていた人間が全て一斉に立ち上がって敬礼をする。


「食堂では敬礼はいらん。皆席に付け。」


男がいうと皆が席につく。それでミサトはこの男が最高位の将官であることを知った。

・・・この男が、碇ゲンドウか。背の高い人ね。聞いてた通りのヒゲ面だわ。

その男はミサトにちらと目線を走らせたが、興味なさげに直ぐ視線を外した。
隣にいた吉嶺医師が、小声で話し掛けた。


「こちらが碇司令だ、なにか挨拶をしたまえ。」


紹介もされていないのに女の方から声をかける訳にいきますかっての! ミサトは毒づいた。


「ひげで、赤いサングラスを付けてる男は信用するなと言うのが父の遺言なのよね〜。」


そう面当て混じりに嘘ぶいた。何らかの反応を期待する。それでこの男の器が知れるかと思った。
現状では精一杯の虚勢である。これ以上の事は、相手の激昂を誘うだけで意味がないと判断する。
鬚の男は、黙ったまま食事を始めた。エネルギー摂取をする為にだけ食事をするという態度であり
無駄口もきかない。ただもくもくとパンをちぎって、バターを付け口に放り込む。カップスープに
しているのは皿から食べれば時間が掛かるからか。サラダを頬ばりザクザクと噛み砕き燕下する。
嬉しいでも辛いでもない食事。そういえば、プレーンオムレツにもサラダにもコーヒーにも、全く
調味料を使っていない。


「無視か・・・というより、元から眼中にないという感じね。」


そう、心うちで呟く。
自分の素性はさっきの会話で十分知れたはずだし報告だっていっているはずだ。ということはもと
もとミサトという娘の持っている情報などに興味はない、期待はしてないということなのか。昔、
心を閉じていた頃は私もあんな食事の取り方をしていたとミサトは思った。どんなにか傲慢で歪ん
だ性癖の持ち主だろうかとおもっていたが、こうして見ていると、なにかを思いつめた求道者の様
にすら見える。こんな男を吉嶺医師のような人までが我々を導く指導者と呼ぶ。そこには何か得体
の知れないマインドコントロールめいた物を感じてしまうが、他の人々を見てもとてもそうとは思
えないのだった。目の中に狂気がなく、またぼんやりと濁った部分も見出せない。大学の卒業生が
就職した先の、企業研究室や経済研究所の人々の方が、よほど片寄った目付きをしていたと思う。
ドロリと死んだ魚のような黄ばんだ白目をした焦点のずれた眼差し。後付けの理屈を考え出す日々
に倦み、ただ仕事の為の無意味な仕事をする者達の腐り切った空気。
ここの人々の目は生き生きとして健康そのものだ。輪郭のはっきりした黒目と青みが入った白目を
している。まるで10代の少年少女がそのまますくすくと育ったような、そんな眼差しだ。


「一体ここで何をしているのよ。あななたたちは。」


ミサトは思わず、口に出してその疑問を発していた。殆ど食事を終りかけていた碇ゲンドウが、初
めてこちらに目を向けた。


「ここで、我々が何をしているのかというのか?」


それは、ミサトがかつて聞いたことの無い声だった。悪意も好意もない人としての感情の欠片も感
じられない声。その人間の機能にだけ問いかける、その他の雑多な附属能には全く興味のない声と
でもいうべきだろうか、そのような声だった。


「ここで、我々は世界を守ろうとしているのだ。人間という種の最後の砦としてな。」


狂人だ、とミサトは思った。人類の砦? 世界を守る?


「冬月。まだこれには何も見せていないのか。」

「ああ、司令の許可を貰わないことにはな。暫く不在だったろう。」

「何の為の副司令だ。」

「あれは副司令権限に含まれておらんよ。」

「たった今許可した。この娘の件に関しては全ての権限をお前に委譲する。」

「了解した。それでは早速行こうか。」


急速に事が動き出した。



「ち、ちょっとたんま。何も食べてないのよっ!」


ミサトは手直にあったフランクフルトを2、3本食パンに挟み込むと隣にいた女性職員のミルクを
一気に飲み干し、更にオレンジジュースに手を伸ばした。


「おい、置いていくぞ。」

「ちょっとまってよおっ!」


そのままジュースを飲みながら歩き出して、出口の近くのテーブルにいた男の前にグラスをバン!
と放り出した。がうがうととソーセージにかぶりつきながらついていく。シューッとエアロックが
開くと同時に護衛か獄卒か、さっきの若いのが両側を固める。


「先ほどまでのお澄まし姿とは随分違和感が有るけど。」

「うっさい。人間食えるとこに喰っておかなきゃ生きて行けないのよっ!」

「うん、それが本性なら僕ら上手くやれるかもしれませんね、葛城さん。」

「ほ、本性たア何よ。あたしが下品に振る舞ってるほうが自然だとでもいう訳っ?」

「そうは言いませんがね、お嬢様。」


そう揶揄して、青葉と日向のふたりは顔を見合わせてにやりと笑った。


「この・・・っ!」


そう思ったが喰うのに忙しくて何もできない。朝飯だけは抜くと力が入らないたちなので。
その上、ショーツを付けさせてもらえなかったので、すかすかして頼り無い。これでは実戦もまま
ならないではないか。そう思いながらソーセージで汚れた指をパンで拭き取り、そのままかまわず
口の中に放り込んだ。


「見てなさいよ。ショーツさえ手に入ったらこてんぱんにしてやるんだから。」


口を動かしながら、腹の中では敵愾心がむらむらと湧きあがっている。
冬月は振り返らずに歩きながらも破顔していた。若者は何処ででも楽しみを見つけられるものだ。
それが我々人間の未来を造り出すのか、と。






「どうだ碇。例の物が入手できたそうではないか。功績は大きいな。」

「恐縮です。失われたピースがやっともどってきたということですな。」

「赤木ナオコの抜けた穴も塞げそうだと聞いた。葛城理論の実証も速やかにな。」

「承知しております・・・議長。・・・なかなか興味の有る被検体です。」


「・・・・」

「どうしました。」

「いや、お前の、歯を見せる程の笑いを初めて見たと思ってな。」

「恐れ入ります。」







 赤木リツコは、既に母の進めていたマギシステムを完全に把握しその機能を更に改善する為の
研究に取りかかっていた。しかし何故このマギシステムは女を3分割したものであるのだろう。
その3つを集めた所に有るのが女と言う存在そのものではないか。矛盾に満ちた存在とは言うが
それは所詮、男から見た女の姿に過ぎない。男に服従し、隷属し、全てを差し出したい女という
獣の姿だ。毋は何故そんなものを創作したのか。多分それはその時の母が隷属した存在であった
ために気づかなかった部分なのかも知れない。理性は知性と感性と情動からなる。そして情動は
簡単に隷属する。感情は支配される。知性は洗脳され刷り込まれる。理性とはそんなにも脆い。
そんなものをベースにして本当に全てが押し量れるのか。母と妻と女と言う3角は、その中心に
男の存在があって初めてなるもの。男を語れば女のロジックは形をとどめない。水のように溶け
て消えてしまうもの。それでもなおそれを中心に据えるのは世界の中心が男であることを認めた
と言うことなのか?この女性中心主義を模したシステムは対となる男中心の世界を必要とするの
ではないか。でなければ、この世は女性原理たるアニマに支配されることになる。そんな不完全
な世界を母はなぜ望んだのだろう。その女性の世界こそ実は唯一中心神たるアダムに支配される、
男性原理中心の世界であることに気づかなかったのだろうか。複数の女神達が唯一絶対の男に対
し額づく世界。全てを奉仕に捧げ、全身で媚び、痴態を示す世界なのではないか。そんな所に女
としての喜びがあるとは、いまだ処女であるリツコには到底思えないのだった。


「このマギシステムには何か大きなからくりがあり、何か別の目的の為に仕立てられている。
その目的は遥か昔に世界を闊歩していた神々に縋り付くことだと何故気がつかなかったの?
母は知りながらその事に気づかぬふりをしていた。必ず何か秘密がある。それは一体?」


死海文書の果てにある、あるイベントの為に仕組まれた巨大な陥穽。人間を止揚する試みか?
それは、そこに奉仕する為の巫女を常に求める。リツコは自分が母娘2代に渡ってそこに差し
出されたものである事に未だ気づいていない。
だが、男達は時期を待っていたに過ぎない。リツコは既に巫女の衣装を纏わされていたのだ。



この、大深度地下で、地上の阿鼻叫喚の泥濘に沈んでいく人々の命が虫けらのように棄て去られて
いる中、次世代の青年達が創造を受け継ぐべく血に塗れ汚辱に塗れ動きだそうとしていた。それは
何処までも続く氷の雪原に、生臭い毛皮に素肌を曝して歩き出そうとしていた、人間の祖先の姿に
似ていた。






『はじめに神は天と地とを創造された。地は形なく、むなしく、やみが淵のおもてにあり、神の霊
が水のおもてをおおっていた。神は「光あれ」と言われた。すると光があった。』        
                      ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・創世記1章1節





第13話 『氷雪の風景』2002-08-28/komedokoro
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後書きと言い訳。

続き・・と言うのもおこがましい程の間隔でお送り致します。誠に申し訳なし。
これだけの年月かけてやっとEVAメンバーが揃って来てお話が始る雰囲気に。
一体何をしていたのでしょうか。御覧の通り青葉と日向はもともと子飼の戦力
であったと言う設定になっています。初対面はこんな感じか?リツコさんもまだ
清いです。それに比べて我等のミサトさん、ちょっとがさつ過ぎ?次回はまた
加持を出したいですね、ってもう描き始めてはいるんですが。かっこよく行き
たいですね。LMK。(^.^)/こめどころでした。

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待ったかいがあるというものです。こめどころさんから、久々に投稿頂きました。
前から若干時間が経過しているというものの、切れがある文章に磨きがかかった
感さえあります。物語は今から始まった、という印象さえあります。これからどうなっていくので
しょうか。マイペースでぜひ続きを書いて頂きたいところです。次回って書いてあるので
忘れないで下さいよー、こめさん(笑)   (管理人)