世界がオレンジ色に塗り潰される。
感じる温もりは心地よく溶かし、海のように漣が揺らす。
『此処は・・・、何処だろう・・・。』
語るでもなく思った言葉が、世界に響いていく。
「愛してる?」
遠くで誰かが問い掛けているような気がした。
「・・・さぁ、どっちかな?」
遠くで誰かが答えたような気がした。
『誰だろう・・・。』
声のした方を見遣る。
ただ一面に広がるオレンジ色に、目を凝らす。
うっすらと、浮かび上がる影。
赤いジャケット。
長い髪。
『葛城三佐・・・。』
呟きは呼びかけのように、世界に広がっていく。
「・・・、愛してる?」
淋しげで、虚ろにミサトは問い掛ける。
こんなにも側に、今、あなたがいる・・・。
高鳴る思いを押さえながら、問い掛けにはっきりとした口調で答える。
「あなただけを・・・、愛しています。」
『でも、あなたは愛されていない。』
* * *
望んで何が悪いの?
待って何が悪いの?
甘えて何が悪いの?
『自分を愛せない人に、他人を愛する事は出来ないわ。』
出来るわよ。
愛してるわよ。
・・・、加持君の事・・・。
『自分から逃げ出したのよ。』
あの時は・・・、確かに、そうだったかも知れない。
でも、今は違うわ。
ちゃんと、愛してるもの、加持君の事を。
『でも、自分に自信がないのね。』
・・・。
『だから、愛されたいと願う。』
・・・。
『自分自身を愛せないのね。』
確かに・・・、好きじゃないわ。
都合よく男に縋って、酒に浸って現実から逃げてる・・・。
使徒を倒す事だって、結局は否定にしかすぎない・・・。
『だから、愛されたいと願う。』
・・・そう・・・かも・・・知れない・・・。
『だから、愛されたいと願う。』
・・・そう・・・ね・・・。
『だから、愛されたいと願う。』
・・・そう。
だから、私は愛されたいの・・・。
優しく包んで欲しいと願う・・・。
『では、愛されてみれば?』
* * *
・・・、それは、判っていた。
だから、言い出せなかった。
・・・、伝えられずにいた。
『伝えなければ、始まらないわ。』
伝えたさ。
フィフスの少年がドグマを降りていく時に・・・。
今しかないと、思ったんだ・・・。
『絶望の中にしか、好機を見出せなかったのね。』
ずっと・・・、伝えたかったんだ。
でも・・・。
仕事の事とかを考えると・・・。
『言い訳をして、諦めていたのね。』
・・・!
『だから、絶望に好機を見出したのね。』
・・・。
『傷付く事を、恐れていたのね。』
そう・・・かも・・・しれない・・・。
だから僕は・・・、言い出せなかった。
絶望の中でしか、言い出せなかった・・・。
『でも、愛したいと思う。』
・・・ああ。
『でも、愛したいと思う。』
・・・、そうだよ。
『でも、愛したいと思う。』
・・・、そうだ。
僕は葛城さんを愛したい。
愛しているから、愛したいんだ・・・。
『では、愛してみれば?』
オレンジ色が支配する空間に、二人の人間の存在が許される。
日向マコトと葛城ミサト。
それぞれが自分の認識する自分の形を作り上げ、空間に対峙する。
「愛したいと思ったら・・・、此処に来ました。」
「愛されたいと願ったら・・・、此処に来たわ。」
日向がミサトを見詰めて口を開くと、それに答えるようにミサトも返す。
ネルフの制服を纏った日向と、何時もの赤いジャケットのミサトは互いに歩み寄る。
その距離は上司と部下の距離でなく初めての男と女の距離になり、戸惑いに似たはにかみを二人は浮かべる。
「僕で・・・、いいんですか?」
愚問だと知りながら、日向は尋ねる。
「愛されたいから・・・、此処にいるの。
愛されたいと願ってるから・・・。」
微笑みながら答えたミサトを、日向は強く抱き締める。
「愛してますよ、葛城さん・・・。
誰よりも、あなたのことを・・・。
愛してる・・・。」
耳元で囁いて、日向はミサトに唇を重ねる。
優しく重なった唇はやがて、激しく強く、貪るように求め合い、
滑らかな生き物の様に舌が蠢き、絡み合う。
日向の指が背中を滑る度に、ミサトの体から力が奪われていく。
膝に力が入らなくなったのか、上体を日向に預ける格好になる。
ミサトの唇を解放した日向は、ミサトを脱がせてから、胸に口付け、横たえる。
覆い被さるようにして、ミサトの耳に口付けながら太股の辺りを優しく撫でると、
苦しいような喘ぎ声が漏れてくる。
舌先を胸元に滑らせながら指先でミサトを感じる。
優しく触れたそこは熱く、包み込むようにねっとりとしていた。
日向はゆっくりと撫でながら、ミサトの耳をかじる。
舌を差し入れ、息を吹きかけ、唇で優しく噛むと、
ミサトの体が大きく捩れ、甘美な吐息が大きく漏れる。
「ん・・・。」
少し困ったような声で微笑みながら、ミサトは日向の服に手をかける。
しなやかな指先が日向の素肌に滑り込んでくると、包み込むように背中を抱き締めてくる。
首筋に口付けながら、日向は二人を阻む物を捨てていく。
首筋を這う舌先が胸元に辿り着くと、ミサトの手が熱くなった日向を掴む。
日向も指先をミサトの中へと滑らせてみる。
「あっ・・・。」
日向の指を絡め取りながら、ミサトの体は吸い込むように萎縮し、仰け反る。
滑り込ませた指を掻き出すように動かしながら親指で優しく花芯を撫でると、
ミサトの太股が小刻みに震え、上体が捩れ、上気した頬が揺れる。
虚ろになった瞳が開かれ、指先で愛撫を続ける日向に訴える。
唇が微かに動いて哀願する。
「あん・・・、きてぇ・・・。」
その言葉に、日向はミサトと一つになる。
心と体が、一つに融け合う。
互いが互いを、埋め合う。
そしてオレンジ色の世界から、気配が徐々に消えていく・・・。
『戻らないの?』
彼方からの問い掛けは、二人の耳には届かない。
『此処に、居るの?』
そう・・・、このまま・・・、此処に居たい・・・。
ずっと・・・、このまま・・・、愛されたい・・・。
『現実があなたの存在を消してしまってもいいの?』
構わない・・・。
現実よりも・・・、僕はこの今を失いたくない・・・。
構わないわ・・・。
このまま、快感に融けてしまいたい・・・。
『流され、彷徨い、漂うだけになってしまうわよ?』
もし・・・、そうなったとしても・・・。
この温もりが、あればいい・・・。
二人でこのまま流されるなら・・・。
悪くないわ・・・。
『それで、いいのね?』
それで、いいよ・・・。
それで、いいわ・・・。
語りかける声が遠ざかっていく。
日向はミサトに自分を埋めながら、貪るように口付ける。
時の流れも、この世の掟も。
今の僕には力を持たない・・・。
こうして重ねる事だけが、僕の全てなのだから・・・。
* * *
融け合う 心と 体を 求め合いながら
堕ちゆく 二人は 彷徨う 懶惰の堕天使
FIN