夏の日の思い出

 

第6話   秘密のスペシャルレッスン for オトコノコ

 

純は兄貴から麦茶を注がれると、それを嬉しそうに一気に飲み干した。

「うん、いい飲みっぷりだ!やっぱり風呂上がりにゃ牛乳だよな!」

兄貴はそう笑ってから、

「ところで力丸よお」

「うん?」

「お前、今、パンダみたいな顔になってんぞ?そんなに顔殴られたのか?トロい奴だなぁ」

俺はちょっとむっとした。

そんな訳がないじゃんか。

俺は確かにボッコボコの、これ以上ないってぐらいにミジメなKO負け

しちまったけど、目の回り殴られた覚えは・・・・・

「そ・・・そんなことねぇよ!」

そう答えると、ニヤニヤ笑いながら、

「はっは〜ん、するとそれはクマなんじゃねえの?お前アレだろ、昨日の晩、

トレーニング張り切りすぎてたんじゃねぇのぉ?ひゃはははは!!!」

と右拳を突き出した。

ば、馬鹿野郎、明日試合だっていうのに、そんな体力消耗させるようなことすっかよ。

と、純の方をちらっと見ると、何だかきまり悪そうに、もじもじとそっぽを向いている。

「オイコラ純、どうしたんだよ?」

「べ、別に・・・・・。あ、僕、部屋に戻ってるね!」

そう言うと、慌ててコップを流しに置いて蛇口で洗うと、俺の部屋に逃げるように、

というか完全にどう見ても逃げてんだけど、出ていった。

「オイ、力丸、純の奴、もしかしてちょっと恥ずかしがり屋なんじゃねぇの?」

兄貴が冷蔵庫にボトルを戻しながら言うから、

「そ・れ・が!!そうでもないぜえ、アイツ、兄貴の前でイイ子ぶってんだよ、

だって、アイツ、浅倉○の例のヤツ、オレがいない時に勝手に見ててさ、

そのまま借りていきやがったんだもん。ほら、アイツの母ちゃんこの前

怒鳴り込んできたじゃん、アレ!!」

その途端、くるっと振り向いて

「り〜き〜ま〜る〜!!!!お前が勝手にオレの部屋から持ち出してたのか!?

どうりでどっか行ったまんまだと思ったら!!!!」

やべっ!!!

「ちょっと待てコラ!!!」

「うわっ、兄貴ごめん、マジで悪かったよ〜!!」

「ゴメンで済んだら警察なんかいらねぇんだよっ!」

 

と、下着姿でちょこんと布団に座っていた純は、俺たちが部屋に駆け込む

やいなや、びっくりして

「わわっ、どうしたんですかっ、二人ともっ!!」

「うるさいっ!!コイツは今、痛い目に遭う必要があるんだ、止めるな純!!」

「痛い目って・・・・・力丸は今体ボロボロなんですよ!?今何かしたら

死んじやうよぉ!!」

純が必死にすがりついて止めるから、兄貴もやっとおさまって

「フン、まあ今回はいいや。それより、純、お前ちょっと気に入ったぞ!

いや〜、聞いたぞ?お前、浅倉○の大ファンなんだって?」

純の肩に腕を回してニヤニヤ兄貴は質問する。

「え!?いや、あのそれはですね・・・・・・」

「隠すな隠すな!いいか?オレたちゃ男同士なんだよ、カッコつけてんじゃねぇぞ?

男がスケベなのは一つも恥ずかしいコトじゃねえ!ドカッと構えてろ!」

「・・・・・・は、はあ・・・・・・・」

兄貴、話がものすごくデカくなってんじゃん・・・・・。

「しかし、さっきは何だよ、純情そうに振る舞っておいて、それに飽きたら

もっと他のビデオよこせって力丸シメ上げるなんて、相当のエロだなお前!」

・・・・・・・・兄貴、さっきの俺の話ちゃんと聞いていたか?

「とにかくよ、今日はオレの部屋で寝ろよ!力丸、お前もだ!」

「えっ・・・・。あの・・・・」

「布団、こっちに運べよ〜」

兄貴は俺の布団を片手で抱えると、隣の部屋に運んだ。

 

兄貴の部屋は、外から見られるのが嫌だからってんで、隣の奥の部屋にある。

「わぁ・・・・・・力丸の部屋よりスゴいや・・・・・・」

純の第一声はそうだった。

家具は黒で統一、中央のガラステーブルの下にはアニマル柄ムートンの敷物。

それから、エッチな雑誌に混じってボクシングの雑誌やら、教科書なんかが

あっちこっちになっていて、やっぱり俺の兄貴って感じだ。

ビデオラックの中には、俺が触っちゃいけないモノが色々あるらしい。

「さて、と・・・・・・・」

「あの・・・・・」

純が言うタイミングがわからないまま薮から棒に

「僕、今日泊まるつもりなかったから、パジャマなかったし・・・・・・パンツ、

朝から替えてなくって・・・・・どうしよう・・・・・・・制服と水着は

洗ってもらってるし・・・・・」

とオロオロしてやがるから、

「馬鹿野郎、男がパジャマだぁ!?」

と兄貴と俺は爆笑した。

「あのなあ、いい歳して何言ってんだ、野郎の寝姿つったら下着一枚に決まってんだろ?」

「えっ・・・・・えええっ!?」

そうだ、そういえば・・・・・

俺は自分の部屋に戻ってから、アーミー柄のトランクスを手渡して、

「コレ貸してやるよ」

「そっ・・・・それはちょっと」

「あ、何だよ〜、ダチのパンツはそんなに嫌なのかぁ?」

「・・・・・・・・そうじゃないって・・・・」

ホントにそう思ってるかぁ?

とにかく、純はそのままどこかに行こうとするもんだから、

「お前、何隠れて着替えようとしてんだよ?」

「えっ、だって恥ずかしいじゃ・・・・」

「さっきも言ったろ。恥ずかしいもクソも、男同士にあるかよ、なあ?」

兄貴も

「そうだよ。俺なんか、隠したことなんか一度もないし」

純は顔を真っ赤にして、更にもじもじしてしまう。

ったく、こんな情けない奴に俺はボコられたのか?

そう思うと、俺は何があっても、純には男らしくなって貰わないとと思う。

これじゃまるで、純、いじめられっ子みたいじゃんか。

でもさあ、純って、東京の学校じゃきっと、学校で頭張ってたんだろうな。

ナヨナヨしているのはみんな周囲を油断させるための演技で、いざ立ち向かう

相手には容赦なく牙を剥く・・・・・・コイツはもしかしたら、とんでもない奴

なのかも知れない。

と、俺は次の瞬間、完全に男としての敗北を感じた。

「おほっ!?純、お前、力丸よっかずっと・・・・・・なあ、力丸?」

・・・・・・・・・もうほっといてくれ。

「おっ、結構似合ってんじゃん、ええっ?イイ感じだぞ、純!ちょっと鏡見てみろ!」

兄貴は嬉しそうに純を立て掛けておいた鏡の前に立たせて

「どうだよ、うん。何か、ボクサーって感じでいいぞ!これでリングに上がってみろ、

かっこいいんだろうなぁ」

「そ、そうですかぁ?」

「ああ、力丸なんか、太りすぎてるもんな・・・・・・」

「あ、何だよ兄貴それ〜!!」

「でってよう・・・こんなブクブクの腹でボクシングなんて・・・なぁ!!」

しこたま純のボティーくらってボロボロの腹をズン、と踏み締められて、

俺は気が狂いそうなぐらいわめいて布団の上を転がり回った。

そんなやり取りが取りあえず終わってから、

「うっし、なら、そろそろ・・・・・・なあ?」

「そうだな、兄貴!」

待ってました、いよいよ上映会と行きますか!

純がどうこうとは別に、今日は兄貴の学校のツレから新しいビデオが回ってくるって

ことになってたもんな。

忘れてなかったんだ、兄貴!!

「純、ちょっとそこどいてろ。ちょっと部のダチからイイもん貰ってきたんでな」

ビデオラックの中には、兄貴が中古のリサイクルショップで買ってきた

ひと昔前のS-VHSデッキ。

何か、どうしてもビデオを買うならこれでなきゃ駄目だって

あっちこっち探してたらしいけど、定価が20万以上していたすごい奴らしい。

まあ、これがあるからいろいろダビングし放題なんだけど、やっぱり画質は

言うだけあっていい。

「純、今日は『男』としてビデオでしっかり勉強するんだぞ!ああっ、今から

ムズムズしてくるぜ!」

兄貴がシャドーボクシングを始めて

「え?」

「アハハハ、お前もウチの高校来たらこういうことするってヤツだよ!」

「いや、でも僕・・・・・そんなことするかどうか・・・・・」

「何言ってんだ、お前の体ならこなせるって!むしろ有利だぜぇ?」

「そ、そうなんですか?」

「決まってんじゃん・・・とにかくよ、オレ、初めて見た日は眠れなかったね!」

純はびっくりして、

「えっ・・・・・・そんなに強烈なシーンがあるんですか?」

「当たり前だろ!コレみて何も感じない奴は男と認めないね!」

「そ・・・・そんなの見て、僕平気かなぁ・・・・・僕、そういう経験ないから・・・・」

と不安そうな純に

「当たり前じゃんか、お前の歳でそんなこと経験してるガキ、そうそういるかよ!」

「そっ・・・・・そりゃそうだけど・・・・・」

「まあ、ちょっと時間あるかもな。国内のだけど12ラウンドびっちりだぜ?」

純、もうどきどきしてやがる。

「お前、こういうの好きか?」

「いや・・・うち、お母さんこういうの見せてくんなくって・・・・・・」

「アハハハハ、そうだろうなぁ!!ま、うちでしっかり見てってくれよ」

純の頭をポンポン叩いて、再生ボタンを押す兄貴。

 

「・・・・・・・・・・・・・!!!!!」

純の目が、まるでナテラのCMをやっていた時の篠ひろ子か、石垣食品の

ミネラルウーロン茶のCMやってた松島トモ子並に大きく開かれた。

その変わりようといったら、通常時とエロトークをしている高田純二ぐらいの

格差があった。

「どうだ純、お前がこういうのも好きだったとはな!」

「・・・・・・・・・・・」

純は右手で目を被ったまま、がくっと肩を落とした。

「何だ、も、もしかしてコレでも気に入らないのか!?」

「いや・・・・・・気に入るとかそういうことではなくてですね・・・・」

「お前、ひょっとして・・・・・駄目だ、駄目だぞ純、お前まだ小学生なのにっ・・・・・」

オイオイ純、お前、ひょっとしてもっとすごいの期待していたのか!?

信じられねぇ・・・・・。

そんなの途中で誰かが止めちゃうし、どっちかが死んじまうぜ!?

そんな野獣のようなファイトを見たいだなんて・・・・・・・・。

「なっ・・・・・何を想像してるんですかっ!そんな、こういうことだったんですか!?」

「いや、何って・・・・・それより純、お前の体、もうすっかり戦闘体制じゃん」

 

「えっ・・・・・・・・わっ、ちょっと、何すんですかぁっ!」

「今日は俺がじっくりコーチしてやる!自己流で変な癖つくといけないからな!」

 

その日、兄貴の部屋は12時を過ぎても明々と照明が消えることはなかった。

それにしても驚いたのは、純っていう奴は、女みたいな顔しているくせに、

とんでもない腕力と体してて、しかもちょっと変態だったっていうのが分かって、

俺は今どうしていいのかわからなくなっていた。

純、そんなことになっていても、俺たちはずっと友達だし、それにこのことは

クラスのみんなには絶対内緒にしてやるから安心しろよな!

しかし、純の奴、小さな頃にどんな心の傷を背負ってしまったんだろう。

今は聞くのは可哀想だけど、いつかこりゃあ話だけでも聞いてやらなくちゃ

駄目だろう。

それがダチってもんだ!!

そうだよな、純?

く〜、俺ってホント、優しいよな。

そうだよ、本当の男って奴は、何つうか、顔がいいとか、腕が立つとかって

だけじゃ駄目なんだよ、こういう優しさっつーか、オトナな気遣いができるようで

なくっちゃな!

へへへ、やっぱ俺ってカッコイイよなぁ。

試合じゃ負けたかもしんないけど、こういう心意気って部分じゃ俺は絶対、純より

ずっと上なつもりだぜ!

 

(あまりにも内容が無い上に腐りまくった展開のまま7話に続く(汗))

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