Adoration for Beautiful Gloved Boys

文学に現われた少年ボクサー

ボクシングは歴史上最古のスポーツのひとつだろうし、また、英

国は近代ボクシング発祥の地であるのだから、 英国文学にはボ

クシングを題材とした作品が多数現れている。 しかし、その多

くは児童文学ないし少年文学の範疇であって、 特に「文学」と

銘打って、我国に紹介されたものは、比較的に少ない。 もっと

も有名なものは、今日では全編に流れる英国一流の悪しき教養主

義、貴族趣味がむしろ批判の対象となり、また、純文学の香気に

やや欠けるところがあるけれども、1857年出版の「トム・ブ

ラウンの学校生活 ”Tom Brown's School-days”」 だろうと

思う。 その内容は、パブリック・スクールに入学した少年の成

長を取り扱い、モデルとなったのは、ラグビー校であった。 と

にかく、スポーツ万能のお国柄だから、当然、ラグビーやクリ

ケットの情景描写が目に付くが、ボクシングの記述もある。 

グローブの採用が1747年、クインズベリー・ルール すなわ

ち、10秒KOルールやリングのサイズ、それに試合時間3分、

休憩1分など、現行のルールが制定されるのが1886年である

から、まさに近代ボクシング揺籃期の作品である。 クインスベ

リー・ルールはクインズベリー侯爵の名が冠してあり、この当時

ボクシングは、上流階級のスポーツと考えられ、後世のハングリ

ースポーツのイメージは無かったのだろう。 トム少年、多分、

14歳くらい? がいじめっこの上級生にボクシング形式の

決闘を挑み、激闘苦戦のすえ勝ってしまう場面がある。 東京帝

国大学の英文科講師だった小泉八雲も本書を紹介しているが、彼

はかなり批判的な紹介をしている。 たしか映画にもなっていて、

見た覚えがあるのだけれど、 詳細は忘れてしまった。 

もうひとつ、これは少年ものでないので恐縮だけれども、次は

シャーロック・ホームズ、この名探偵は、たしかミドル級のア

マ・ボクサーという設定の筈で、題名は失念したが、ホームズ

がボクシングの技で無頼漢を打ち倒す場面のあるTVがありました

ね。 今日のフットワークやパンチの繰り出し方とは、まるで

違っていたことだけ記憶しています。 どなたか、ご存知ない

ですか?  最後に、これはむしろゲテモノですが、 夏目漱石に

女子ボクシングと思われる記述がある。 明治38年に漱石が明

治大学で行った講演の筆記の中に述べられているもので、

この題材は Amusements of Old London 1901 からとられている。 

漱石というと、なにか常に気難しくて、ムンズリしているように

我々は思ってしまうが、実際はなかなか下々のことにも通じてい

たようで、たとえば作品の中で、はじめて麻雀を紹介したのも漱

石だろうと思う。(満韓ところどころ) ただし、自分でやった

ことはなかったらしく、ルールも知らなかったようである。 多

分、上記の女子ボクシングも観戦した経験はなかったんでしょうね。