「〜少年たちの対決・第1部〜」

Dedicated to Mr. 猫GLOBEX

 

第2話:リングに上がる少年たち

 

そしてとうとう試合の日がやってきた。

もう学校中で話題になっていた。あのあこがれのYくんやTくんが殴り合いするっ

ていうんで、女の子はあちこちでうわさ話をしている・・・中には2人のことを

心配して、ベソをかいている子も・・・

 

放課後、剣道場のリングの回りには他の生徒たちが見物に集まっていた。

そしてバレーとバスケの両部員が、赤青各コーナーに体育用の白い短パン姿で集

合させられた。上半身裸で・・・え?

傍らには赤いボクシンググローブとヘッドギア(オモチャかと思ってたら、本物

の試合用のだ)、リングシューズまで用意してある・・・

 

リングといい、この用具といい、U先生、どこで調達したんだろ・・・

あ、そういえばU先生って、格闘技マニアとしては有名だって他の先生が言って

た・・・うわさでは血の付いた少年用のトランクス(白くてすごく短いヤツ)を

オークションで手に入れたらしい・・・そんなもの売りに出す人って・・・?

 

U先生の合図で、最初に全員がリングに上がった。

 

「1ラウンドは2分間、休みは1分間で3ラウンドだ。3回ダウンしたら負けだ。

相手をつかんだり、手のひらで打ったりしちゃだめだぞ!頭突きに注意して!」

 

TくんとYくん、そんな先生の注意なんて聞いてなくて、にらみあってもう一触即

発・・・でも2人とも白い短パン、白いリングシューズ、それにバンデージを巻

いたボクサーの格好もすごくカッコイイ!

 

ついに第1試合開始だ。

最初の対戦はバレー部は5年生Kくんとバスケの同じ5年生のFくん、あたりまえ

だけど、どっちもボクシングなんて初めてだ。マウスピースを上下反対に入れちゃ

ったり・・・

 

カーン!ゴングが鳴った。

Fくん、いきなり飛びだして行ってパンチを振り回してる・・・全然当たらない・

・・

それにひきかえKくんは、いつのまに覚えたのか、Fくんのパンチをかいくぐって・

・・

 

バチン!・・Fくんのお腹にパンチを入れた!

 

「はうっ・・・」

 

Fくんはうめいて前かがみになった。そこへKくんのラッシュ、というか、がむしゃ

らなパンチがバシバシ当たっている。

Fくん、たまらずダウン!こんなに殴られたなんて、今まで経験したことないん

じゃ・・・僕もああなっちゃうのかな・・・

 

U先生がカウントを取り始めた。

Fくんはなんとか立ち上がったけど、またボコボコにやられて・・・結局戦意喪

失で、というか泣き出しちゃって、試合ストップ!

 

でも見てる生徒たちも、間近での殴り合いなんて初めてなので、そんなFくんを

笑うどころか、興奮してるみたいだ・・・

 

べそをかきながらリングを降りてきたFくんに、Tくんは、

 

「何だよ、だらしねぇなぁ、やられ放題じゃねぇか!次はN、お前だぞ、取り返

せよな!」

 

そうなんだ・・・どうしよう・・・僕の相手はバレー部エースアタッカーのMく

ん、なんか強そうだ・・・

僕は気持ちを落ち着けるためにシャドウボクシングを始めた。自分ではさまになっ

ているような・・・マウスピースって、入れ歯みたいで口の中が窮屈・・・

 

「第2試合を始めます。両者、リングに上がって!」

 

僕は胸の前でグローブを合わせて、気持ちを集中させた。

 

カーン!ついに試合が始まった!

相手と向き合うと、ガチガチにあがっちゃってるのが自分でもわかる・・・手も

出ない。

 

「何やってんだ!どんどん攻めろよ!」

 

(Tくん、なんて無責任な・・・ええい、もうヤケクソだ・・・)目をつぶって、

えいっ!

 

バシッ!

あ・・当たった?・・・相手はびっくりしたような、顔をしかめてる・・・

 

「こ・・・この野郎・・・」

 

 

うわっ、怒らせちゃった!突進してきた!

逃げなきゃ・・あ、足が震えて動かない・・・

 

バキッ!Mくんの強烈なフックが僕の頬に!一瞬、頭の中がしびれるような・・・

 

 

Tくんに教わったガードをしてみても、その上からお構いなしにパンチを打ち込

んでくるMくん・・・腕が痛い・・・頭もクラクラと・・・

とにかくバタバタと走って逃げた・・・カッコ悪いけどしょうがない!

でも相手から離れて一息つくと、気持ちも落ち着いてきた。(Mくんだってボク

シングは全然素人なんだから・・・)

Tくんがコーナーからアドバイスを飛ばす。

 

「N!相手は大振りだから、あわてないでよく見ていればスキだらけだぞ!」

 

(そんなこと簡単に言われたって・・・)でも、確かに当たったら痛そうだけど、

すごいメチャクチャに振り回してるだけみたい・・・ようし・・・

フットワークなんてできっこないから、体を折り曲げて相手のパンチをかわした

(でもこれって、ダッキングっていうテクニックだって、後で知った。)

そしてガードも何もないMくんのお腹に・・・猫パンチみたいに・・・

 

ボンッ!「うぶっ!」

 

Mくんの苦しげな声・・・効いたのかな・・・

まだこわいけど、体を起こしてジャブみたいなのを打ってみた。あ、意外に当た

るんだ!自信がついたような気分・・・ちょっと積極的に・・・

そうだ・・・Tくんにさっき教わったみたいに、近づいて小さくフックの連打を

出してみた。Mくんの顔面にバシバシと当たる!Mくんが後退する!

 

あれ・・・・何だろう、拳から伝わるこの感触は・・・それが快感に変わってい

くような・・・でもさっきまでは別に何も感じなかったのに・・・

 

(つづく)

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