プロローグ coverpage

 アイコとケンイチは高校の同級生である。ケンイチは転校生である。
我々のヒロインであるところのヒナタアイコは外見からは想像もできないが、ボクシングが
好きなのである。彼女は毎日町のジムで練習し、JWBAのチャンピオンになることを夢見ている。
しかし、彼女にはよいトレーナーがいなかった。
 ある日、彼女がジムへ行くと練習生皆がスパーリングを見物しているのに驚いた。
さらに驚いたことに、その卓抜した技術を披露していたのは、彼女のクラスメートのケンイチ
だったのである。スパーの後、アイコはケンイチに自分のトレーナーになってくれるよう懇願したが、
相手にもされなかった。
 しかし、彼女はあきらめなかった。親友のマイリーンの助けを借りて、更に練習を積んだ。
ミヤムラ・マイリーンはアイコの同級生で、ボクシング馬鹿のアイコによくつきあってくれていた。
 結局、ケンイチはアイコの懇願に困惑し、彼女がデビュー戦で彼の助けなしで勝利したら
トレーナーを引き受けると約束した。
 アイコはプロテストを受け、Bクラスで合格した。

 アイコは、一週間後に迫ったデビュー戦に向け、ますます練習をした。
彼女は初めての実戦に向け高揚していた。
幼馴染のヒデアキとしかスパーリングしたことがないからである。
カザマ・ヒデアキは女々しい男で、アイコとスパーリングをしているときも逃げ回ってばかりいた。
 ケンイチは彼女が練習をしているのを距離をおいて見ていた。過酷な練習は放課後に行われたが、
あまりの疲労に授業中居眠りすることもしばしばであった。
 デビュー戦の前日、アイコはマイリーンとヒデキと一緒に家路を辿った。
マイリーンとヒデアキはアイコの真意を問いただした。
アイコはチャンピオンになるという自分の夢を熱く語った。
マイリーンは涙ながらに試合をやめるように訴えた。ヒデアキもそれにうなずいた。
アイコは目頭を熱くし、彼らを抱きしめその忠告に感謝した。
しかし、彼女は明日のためにみんなで頑張ってきたのではと、諄諄に諭した。
しばしの嗚咽のあと、マイリーンは言った。
「わたし、リングサイドでセコンドについてできるだけのことをするわ」と。
ヒデアキもそれ以上何も言えなかった。
このやりとりを、少し離れた場所でケンイチが見ていた。

 その晩、ケンイチとアイコは公園でばったり出会った。
アイコは病気の母のために買い物にいってきた帰りなのだ。
アイコは道すがらケンイチに言った。
「あなたは私の夢のボクサーに似ている」と。
ケンイチは
「他人の空似だ」と答えた。そして、
「本当にボクシングをしたいのか」と問うた。
アイコは微笑みながら言った。
「これはわたしの夢。わたしやるわ!」
「負けたら?」
しばしの沈黙の後、
「負けない。負けられない…」
アイコの家で、ケンイチはアイコの母を看病する姿を見るにつけ、彼女の優しさに気づいた。
ケンイチの帰り際、アイコは言った。
「私、負けられないの。あなたにトレーニングしてもらえるまで。」
ケンイチは、
「今夜はもう遅い。明日の試合のためにもう休みなさい」というのみだった。
彼は立ち去り際振り返り、彼女と目があった。二人はなぜか赤面してしまった。

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